本研究では,膜厚100μmの純銅膜材に直径0.5mmの切欠き穴を開けた試験片を作製し,応力比R=0の条件下での疲労試験を行った.その後,電子線後方散乱回折(EBSD: Electron Back-scatter Diffraction)法を用いた結晶方位解析から,局所結晶方位差と方位差軸を算出し,銅膜材の疲労損傷に関するメカニズムに関して以下のように考察した. ・局所結晶方位差の分布について評価したところ,それぞれの結晶粒で方位差の大きさはほぼ等しい値を示していた.また,一つの結晶粒の中では,方位差軸は同じような方向を向いていた.このうち,すべりが発生した結晶粒に注目すると,疲労試験によって同じ方向を向いた方位差軸が増大したのに対して,静的引張負荷を加えた場合では,同じ方向を向いた方位差軸が減少した.これは,疲労に伴って局所結晶方位差が一方向に湾曲したのに対して,静的負荷では一つの結晶粒内において様々な方向に湾曲が生じたことを示していると予想された. ・応力繰返し数を増加させることで方位差軸の成分が変化することが分かった.方位差軸は,疲労試験に伴って,最初にZ軸成分が大きく減少し,次第にY軸成分が増えていった.つまり,まず面外方向の局所結晶方位差が大きくなり,その後,面内方向の方位差が大きくなることが分かった.すなわち,方位差軸の変化の観察を行い,Z軸成分が減少しY軸成分が増加している場所を見つけることで,すべり発生の場所を予測できる可能性が示された.また,繰返し負荷に伴うY軸成分の増加を調べることにより,疲労損傷の成長についても予測できる可能性があると考えられる.
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