研究概要 |
本研究課題では,これまで成膜後基板焼入れ処理において実施してきた電気炉による「炉焼入れ」の替わりに「レーザ焼入れ」を採用した「成膜後レーザ焼入れ処理」を提案し,セラミックス被覆鋼のさらなる高機能化を実現することを目的とする.本目的を達成するために,平成23年度は,薄膜をはく離・溶融させることなくセラミックス被覆鋼の高機能化を図ることが可能なレーザ照射条件,およびセラミックス被覆鋼の各種特性に及ぼす成膜後レーザ焼入れ処理の影響について検討した.基板には炭素工具鋼を使用した.薄膜にはTiN薄膜,TiAIN薄膜,CrN薄膜,およびCrAIN薄膜を用いた.レーザ焼入れには,高出力半導体レーザ加工機を使用した.昨年度に比べ,より広い領域を均一に処理するために,レーザ走査にはガルバノミラーを使用した.レーザ照射条件として,レーザの出力と走査速度を種々に変化させた.まず,いずれのセラミックス被覆鋼についても,昨年度に比べて3倍以上広い領域に対して,薄膜をはく離・溶融させることなくレーザ焼入れ可能であることを明らかにした.さらに,いずれのセラミックス被覆鋼についても,レーザ焼入れ処理により,薄膜の硬さ,破壊強度を損なうことなく基板硬さと密着強度を大幅に向上させることが可能であることがわかった.また,ボールオンディスク試験により,薄膜の耐摩耗性に及ぼす成膜後レーザ焼入れ処理の影響も調べた.従来の炉焼入れによる方法では耐摩耗性の改善効果が確認されたが,成膜後レーザ焼入れ処理では,そのような効果は認められなかった. これらの結果より,成膜後レーザ焼入れ処理によって,薄膜の耐摩耗性の改善は困難であるが,膜硬さや破壊強度の低下といった炉焼入れによる成膜後基板焼入れ処理の問題点を克服し,さらに基板硬さと密着強度を簡便かつ効果的に広範囲にわたって向上させることが可能であることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では,適切なレーザ焼入れ条件を明らかにするとともに,セラミックス被覆鋼の各種機械的特性に及ぼす成膜後レーザ焼入れ処理の影響を明らかにすることを平成23年度における目的とした.本年度の研究によって,基板硬さ,膜硬さ,密着強度,耐摩耗性および寸法精度に及ぼす成膜後レーザ焼入れ処理の影響が明らかとなり,これらについては当初の計画通り順調に進展した.しかし,研究計画に記載した転がり疲労試験については,試験片の準備の困難さにより実施に至らなかった.ただし,転がり疲労試験に替わる試験として,球圧子押込み試験に着目し,転がり疲労強度に関連する薄膜の破壊強度を評価できる状況を整えた.また,既に一部試験を実施し,薄膜の破壊強度に及ぼす成膜後レーザ焼入れ処理の影響も明らかになりつつある.これらの点を考慮して(2)の評価とした.
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