DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜あるいはアモルファスカーボン膜の発見から60年、これまでの研究では、水素濃度の影響、ドーピングする金属元素の影響などが主に検討されてきた。特に工具あるいは各種部品へのDLC膜コーティングでは、それらが主流である。本研究は、それに対して、アモルファス膜の3次元成長機構に着目し、PVDで作成するアモルファス膜が、境界が低密度となるカラム構造を呈することに利用し、これに電子ビーム照射し、カラム間の炭素-炭素間の結合が増加(電子密度増加)すること、カラム間の原子密度が増加することで、カラム間のみがグラファイトリッチ相(sp2リッチ相)になる自己組織化することを見出した。このグラファイト化を伴う自己組織化により、カラム内部よりもカラム間が高密度化するナノカラム構造化が達成できることを実証した。 この基礎的発見に基づいて、カラム間のみに金属元素をドーピングさせることに成功し、特定のドーピング濃度を有するナノカラム構造化アモルファスカーボン膜が、異常な弾性回復を示し、膜厚の10%以上の超弾性を示すことを見出した。 一方、自己組織化に影響する因子として膜厚などの形状パラメータ、プラズマ圧力などのプロセスパラメータの効果を系統的に調査し、AFMによる測定などにより、ナノカラム径と膜厚との関係が、PVD下での成長メカニズムに支配されていること、プラ図間圧力の増加に伴う密度低下とナノカラム構造化とに、ナノ構造特性関係があることを見出した。 応用研究はなお限定的であるが、表面濡れ性に関して、通常のDLCと比較して、ナノカラム構造化DLCは、大きな接触変化が得られ、親水性から撥水性までの範囲で接触角度を制御できることを見出した。これにより、バイオ活性化コーティングで必要な、弾性膜特性+表面特性制御性をナノカラム構造化膜で満足でき、医療分野への展開が期待される。
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