最終年度となり,極低温熱サイクル下におけるタングステン繊維強化チタン複合材料(以下W/Ti材)中の応力変化を中性子その場測定を用いて測定評価することが目的となる. 前年度までのW/Ti材はタングステン繊維(以下W繊維)が2層までの試料を用いてX線応力測定を行った.それに対して,今年度は中性子による内部応力評価が主な目的であることから,W繊維の体積率が低い場合は回折線強度が弱くなり測定が困難になることが危惧された.そのため,まず今年度の成果として,W/Ti材におけるW繊維層を7層まで増やした試料の製作に成功した.製作された試料は前年度までの報告と同様に電子顕微鏡観察などを行い,繊維と母材が強固に接合されていることを確認した. W繊維を増やした試料をインドネシア原子力研究所(BATAN)の中性子回折装置を用いて試料内部の応力評価を行った.測定には中性子回折装置に極低温冷却装置を搭載し,室温から10Kまでの冷却サイクル下で応力変化を測定した.また,測定に際しては今回初めてBATANに導入された2次元検出器を使用することで,従来の0次元検出器の約10倍の測定速度での詳細な応力変化の評価が可能となった.これらが第2の成果である. 測定結果として,W繊維は初期状態で約1GPaの大きな圧縮残留応力を持っているが,温度の降下とともにさらに圧縮応力が増加する傾向が確認された.それに対してチタン母材(以下Ti母材)には初期残留応力として,約50MPaの引張残留応力が確認され,W繊維とは逆に温度の降下とともに引張残留応力の増加が確認された,W繊維およびTi母材ともに熱サイクル下では温度降下と上昇では異なる経路を通るヒステリシスループが確認された.測定結果は単純な熱弾性解析の計算結果と良好な一致を示し,W/Ti材の熱応力変化で繊維と母材の熱膨張係数の差が支配要因であることが確認された.
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