失明者の視覚を再生させる「人工眼」において、高空間分解能で多チャネルに人工視覚信号を脳内刺激電極へ送る電気ケーブルが不可欠であり、実用上は1000本を超える金属配線が求められる。本研究は超柔軟・ナノ構造を有する神経刺激電極用パリレン白金ケーブルの更なる微小化・実用化をはかるため、その機械的変形特性および電気抵抗率を多チャネル同時に調べることが可能なマルチファンクション引張試験システムを開発するとともに、その機械的電気的性質と薄膜厚さ特に白金の膜厚の関係、さらにアニールリング熱処理温度の影響を明らかにし、機械的電気的信頼性を考慮したパリレン白金ケーブルの最適な微小構造及び使用条件を発見することを目的とする。 本年度では、高精度リニアアクチュエータを引張試験の駆動源として、パリレン金属ケーブルの電気抵抗信号を引張試験中でリアルタイムに検出できるマルチファンクション引張試験システムを開発した。また、開発した試験システムを用いて、パリレン白金ケーブルの更なる微小化や実用化を実現するために、その基本となるパリレン生体適合材料の引張特性、特にそれに及ぼすアニール熱処理の影響を調べた。パリレンc生体適合材料はBioMEMSデバイスに使用される際、通常、クリーンルーム大気中で100℃1時間程度のベーキングが施される。その縦弾性係数と降伏強さ、伸び率はそれぞれ3.2GPa、66MPa、350~450%である。通常ベーキング処理したパリレンC薄膜はさらに真空中、265℃9hのアニーニング処理を受けると、降伏強さは約2割程度上昇したに対し、伸び率数パーセントまで急減した。なお、通常のベーキング処理と違って真空中ベーキング処理されたパリレン薄膜はその後の真空アニーニングの温度上昇につれ、降伏強さや静強度が徐々に増加した。しかしながら、パリレン薄膜の柔軟性が著しく損なわれた。
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