研究課題/領域番号 |
22560104
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上村 康幸 東京大学, 生産技術研究所, 技術専門職員 (20396906)
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研究分担者 |
土屋 健介 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (80345173)
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キーワード | 目詰まり / 固定砥粒 / ドレスレス / 連続気孔 / 電着 / スパイラル |
研究概要 |
本研究は、固定砥粒工具に共通する目詰まりを防止するために、切屑の流動性を確保した無限のチップポケットに切屑を連続排出することのできるスパイラル構造を有するアシストレスの固定砥粒工具を開発することである.工具は、高工具寿命の推進、インフラの整備による工具コストの削減、環境に対する負荷の軽減を期待している.研究は7項目について行なっている.1)各種砥粒の分散・凝集性および共析量の検討.2)複合めっき工具の製作条件の検討.砥粒層の厚み・硬度・砥粒密度および砥粒径に対する工具表面品質の関係.3)砥粒層の厚み・砥粒密度に対する砥粒保持力の検討.4)試用工具の最適化(ワイヤ径・スパイラル角).5)最適化工具の砥粒径と目詰まりの関係.6)砥粒径・チップポケットサイズが工具寿命、加工品質に与える影響.7)制御パラメータと評価パラメータの相関.前年度は1)~4)について検討した.今年度(平成23年度)は主に5)~6)について検討した.その結果、(5)チップポケットが形成された砥粒率約68%の工具では、切屑の目詰まりにより力センサが顕著な信号を検知し、系が強く加振されていることが分かった.一方、チップポケットが形成されない境界の砥粒率は約55%であり、これ以下では研削抵抗が測定され、顕著な信号は発生しない.工具の目詰まりを早期発見するには、この信号の初期を検知すればよい.また、砥粒率を境界の55%以下にすれば、砥粒径を変えても目詰まりのような目立った信号は現われない.しかし、工具を製造する際は、安全率を考慮した50%以下の砥粒率が望ましい/工具の砥粒密度は複合めっき時の電流密度で制御でき、30A/dm2で40%、40A/dm2で50%であった.しかし、50A/dm2以上にすると品質が低下するため、40A/dm2以下が望ましい.(6)砥粒率が約68%と48%で工具寿命を比較した.粒径は共に#2000のWAを採用した.工具寿命は目詰まりの始まりを寿命と定義し、切込み量で示した.その結果、砥粒率48%の工具は切込み量200umでも目詰まりせず、68%の工具より一桁以上長く、さらに伸びることが示された.次に加工面の粗さについてダイヤモンド砥粒とGC砥粒で比較した.工作物には目詰まりし易いアルミを採用した.砥粒率30%(ダイヤ砥粒:粒径#600)の工具でRa32nmの鏡面が得られた.GC#500の比較用工具では、目詰まりが発生し、RaO.26umであった.目詰まりに関係する因子を考慮した工具は、アシストレスの固定砥粒加工が可能であることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究の目的は、アシストレスの固定砥粒工具を開発することである.初年度は、工具の物性と品質について検討し、改善させたこと.目詰まりに関係する3因子を明確にしたこと.今年度は、目詰まり時に発生する突出した信号を初期検知すれば工具の目詰まりを素早く発見できること.スパイラル構造でチップポケットを形成しない砥粒率(砥粒率50%以下)であれば工具寿命が延びること.砥粒率は電流密度で制御できること.そして、3つの因子を考慮した工具でアシストレスの固定砥粒加工が可能となったことなどから、目的をほぼ達成した.平成24年度は研究の成果を国際学会(2件)、国内学会、IMECなどに発表する.
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今後の研究の推進方策 |
提案したスパイラル構造の工具を応用して被加工物の高精度化を目指す.これまでRa30nmの鏡面研削を可能にしたが、Raを一桁以下にし且つ形状精度を同時に向上させるためには、連続気孔(溝)を有する固定砥粒研磨方式の工具開発が有効であると考える.目標達成のために、(1)電着工具の砥粒層の薄層化と複層化について検討する.(2)スパイラル構造の砥粒層の目詰まりを防止する対策を講じる.(1)については、有機(導電性砥粒)・無機の砥粒で工具品質について比較する.導電性砥粒を電着で複合めっきすると、砥粒が凝集し品質が低下する.有機砥粒の凝集対策と品質が改善すると、複合めっきにおいて画期的となる.(2)については、薄層および複層工具に樹脂を充填することを検討している.予備実験でできる可能性が見えてきたことから、平成25年度の科研費の公募に新規申請する予定である.
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