今年度は、まずSiCの表面終端構造および電荷移動エッチングモデルの検討を行った。前者について第一原理熱力学法に基づく自由エネルギーの計算から、水中でのSiCのSi面の表面終端構造はHの化学ポテンシャルに依存せずOH終端であることが分かった。実験との対応は観察実験が容易でないことから研究継続中である。また、SiCと触媒が接触したモデルの局所状態密度から、SiCから触媒に自然に電荷移動する可能性は低く、さらに極性分子である水分子を挟んだ場合でも傾向に違いがなかったため、SiC表面が正に帯電して表面が酸化される電荷移動モデルは妥当でないと結論した。そこで新たなエッチングモデル(フッ酸分子がSiC表面に直接解離吸着しエッチングが進行するモデル)を提案し、その初期過程を解析した。加工面が原子レベルで平坦であることよりエッチングは表面ステップから進行すると考え、まずステップ表面モデルを作成した。ステップ表面はSi面ではOH終端、ステップ端でのC原子はH終端されていることが第一原理熱力学法でわかった。ステップ端Si原子のバックボンドにHF分子が解離吸着する過程を第一原理分子動力学法で解析するとともにNEB法により反応活性化エネルギーを計算した。さらに高濃度HF水溶液(25%以上)で高加工速度となる実験結果からFイオンの働きも重要であると考え、ステップエッジSiにFイオンを吸着させたモデルについても同様な計算を行った。その結果、Fイオンの吸着は、既に知られているSi5配位構造を形成することで安定化するが、バックボンドは伸びて不安定化することが分かった。HFの解離吸着ではFイオンの有無によらず2eV程度で解離吸着することが分かった。この活性化障壁はやや大きくしかもFイオンの効果も明確でない。現実の反応は水中であり、水分子による活性化障壁の低化やFイオン効果の顕著化の可能性があるため、水分子を含めたモデルについて今後解析していく。
|