原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、ダイヤモンド探針に微小荷重を作用させてシリコン単結晶表面を走査することにより面状に引掻き加工を行い、それに伴う微構造と機械的性質(硬さ)の変化を調べることを試みた。 具体的には、引掻き加工により生じた微細な加工面の断面や加工粉を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察して、加工に伴う微構造変化を詳細に調べることにより、加工過程を推測した。その結果、加工に伴い、表面にはシリコン単結晶が非晶質化したアモルファスSi相が発生し、その直下には転位や歪みが導入された。さらに加工が進行するにつれて、アモルファスSi相は剥離して加工粉となって減少し、その直下に生じた転位はサイズが大きくなり、歪みはほぼ消滅した。 AFMによる引掻き加工に伴う機械的性質の変化を調べるために、微小な加工面の表面近傍のみの機械的性質を精密に測定可能な、ナノインデンテーションを行った。その方法により、加工が進行してアモルファスSi相がほとんどなくなり転位のみとなった加工部のフォースカーブを測定し、未加工部と比較した。その結果、加工部のフォースカーブは、未加工部に比べて同一荷重において押込み深さが小さくなった。これをもとに硬さを求めた結果、この加工部は未加工部に比べて硬さが増大していることがわかった。これは一種の加工硬化であると考えられる。 以上のように、AFMによる引掻き加工に伴うシリコン単結晶の微構造と機械的性質の変化を解明することができ、こうしたナノ加工によりシリコン単結晶表面を強化できることを明らかにした。
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