研究課題/領域番号 |
22560147
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研究機関 | 日本工業大学 |
研究代表者 |
渡部 修一 日本工業大学, 工学部, 教授 (60220886)
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キーワード | DLC / ナノコンポジット / 三次元イオン注入 / 耐熱性 / トライボロジー / 表面・界面物性 / コーティング / 耐摩耗性 |
研究概要 |
硬質炭素系膜の代表であるDLC(Diamond-like Carbon)膜は高硬度、低摩擦、耐摩耗性、低相手材攻撃性など良好なトライボロジー特性や、優れた化学的安定性、電気抵抗の制御が可能といった多くの特徴を持ち、最近特に、いろいろな分野での実用化を目指した開発がおこなわれている。しかし、更なる活用を狙った場合に、使用環境によっては膜付着力あるいは耐熱性などの点で課題も指摘されているのが現状である。そのような中で、本申請研究はDLC膜の耐熱性改善に焦点を絞り、これまでに報告例の無い800℃と高温の温度環境下でも十分な性能、特にトライボコーティングとしての特性を発揮できる膜の開発を目的とする。本年度では耐熱性の改善のために、耐熱性の点で優れるSi-O系クラスタをナノメートルオーダで分散した構造を有するDLC膜を形成するための実験を行った。尚、本研究ではこのような膜を形成する手法としてプラズマイオン注入(Plasma-Based Ion Implantation, PBII)を用い、従来法に比べ、膜の付着力改善の点でもその効果が期待できるものである。成膜プロセスは、まず原料ガスにメタンを用いてイオン注入処理を行い、それに続きアセチレン、テトラメチルシラン、酸素の混合ガスを用いて目的とする組成の膜の形成を行った。形成したDLC膜を熱重量(TG)と示差熱測定(DTA)との同時測定装置(TG8120,(株)Rigaku)を用いて耐熱性の測定を行った。この測定の際の標準試料にはアルミナを用いた。加熱条件は昇温速度を20℃/minと一定とし、加熱温度を室温から800℃まで加熱した。また、真空炉中で、400、600および750℃で熱履歴を加えたあとの膜の摩擦特性を調べるために、大気中にてボールオンディスク型摩擦試験機を用い摩擦試験を行った。この試験条件は、圧子には直径6mmのSUS440C球を用い、荷重を3N、回転半径3.0mm、摩擦速度31.4mm/secとした。大気中での加熱となるTG測定結果から、適当な条件(原料ガスの流量比および基板バイアス電力が主な条件項目)にてSi-O系クラスタをナノメートルオーダで分散したDLC膜は、加熱による重量現象が生じ始める温度が600℃と、何も添加していないアセチレンガスのみで形成したDLC膜の重量変化開始温度(300℃)に比べ顕著に高く、高い耐熱性を示すことを明らかにした。さらに、真空中ではあるが750℃と、目標とした800℃により近い温度域まで熱履歴を与えた後のDLC膜の摩擦係数は0.05程度と、熱影響を与えていない膜と同程度の低摩擦特性を示すこと、さらには104回摩擦させた後の比摩耗量は6.7 x 10^<-7>mm^3/Nmと良好な耐摩耗性も維持することも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
C-Si-O系のクラスタを分散してDLC膜をナノコンポジット化することについては、おおむね良好な成果が得られたものと考えている。この系は化学的・熱的に安定であることから、耐熱性の点で期待した以上の特性が得られている。また機械的特性が良好なDLC層が材料マトリックスになっていることから、コンポジット化しても優れた摩擦耐久性も有すると期待していたが、この点ではまだ改善すべき課題が残されていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成24年度には、これまで開発したSi-O系ナノクラスタに代わり、新たにSi-N系,さらにはCr-O系硬質クラスタを分散させるナノコンポジット膜の開発を中心に実施する。Si-N系およびCr-O系クラスタの分散膜はSi-0系に比べより高硬度化が図れる可能性があり、耐摩耗性がより優れることが期待できる。これまでと同様なC2H2とTMS混合原料ガスに、新たにN2ガスを適当な分圧で混合したガスプラズマによるPBII-CVDによって膜を形成する。さらに使用する装置が複数プロセスのハイブリッドが可能であるので、Crターゲットを用いたスパッタリングを複合化した合成手段を用いてCr-Oクラスタを分散したナノコンポジット膜の形成を実施することを予定している。
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