DLCをSUS440Cにコーティングする場合、Cr-DLCを中間層として用いると密着性が向上する。このようなDLCコーティングを、SUS440C球を相手材として真空中で往復動摩擦させた場合、16サイクル後に摩擦係数μが0.4以上となった。これに対して、真空中での摩擦に先立って大気中で摩擦させた場合、真空中で μ < 0.4 を維持できる摩擦サイクル数が1000サイクル以上に増加した。摩擦寿命は、大気中での摩擦回数が大きくなるほど長くなる傾向が見られた。いずれの場合も最大摩耗深さは0.2 μm以下であった。 Cr-DLCとSUS440C球を真空中で摩擦させた場合は、わずか1サイクル以内で摩擦係数は0.4以上となった。これに対して、Cu-DLCとSUJ2球を真空中で摩擦させると、安定した低摩擦(μ < 0.2)が得られ、負荷荷重を変えても摩擦係数の変化は小さかった。Ag-DLCの場合、相手材がSUJ2球の場合は負荷荷重が小さいほど摩擦係数は大きかったが、C2700球を相手材とした場合は、負荷荷重の影響は小さくなり、安定した低摩擦(μ < 0.25)が得られた。 以上より、宇宙機器など真空中で使用される摩擦システムへのMe-DLC応用の有効性が確認されると共に、より安定した低摩擦・低摩耗を実現するためのMeDLCの金属元素や相手材の選定、負荷荷重範囲など、システム設計の指針を得ることができた。
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