研究概要 |
1)GCIB加工条件の最適化 光学用ガラスボール(BK7)を平滑化するために,クラスタイオンビーム(GCIB)加工条件を最適化するために,アルゴンクラスタに着目し,ドープ密度を1.0×10^<16> cluster/cm^2を基準にして,その4,6,8倍の4段階に変えて,ドープ量に依存した表面粗さの変化を,AFM三次元測定により観測した.ドープ量とともに粗さは単調に低減し,GCIB加工処理なしの場合に比較して,最大粗さは16nm→2nm,平均粗さ2nm→0.3nmに向上した.この範囲では,ドープ量が多いほど平滑化効果が高いことから,粗さが再び増加し始める閾値ドープ量は存在しないことを初めて確認した.単分子膜厚の測定には,十分なレベルに達したので,今後摺動子アセンブリに組み込んで試験を開始する. 2)摺動子アセンブリの構成 摺動によって励起される振動によって,摺動子が跳躍したり,スティック・スリップが発生したりすれば,摩擦を精確に測定することができない.これらの阻害現象の発生の有無を確認するためには,振動モードを解明することが必須である.そこで試作した高剛性型の支持ばねに有限要素法を適用して,摺動状態における各共振周波数におけるモード解析を行った.この結果,共振周波数は実験結果とよい一致を示し,また摺動子が跳躍しやすい共振点を同定した.さらに,ディスクの面ぶれ振動と比較して,跳躍発生の有無を直接確認する測定法を導入して,突き出し量を0.4mm以下に設定した場合には,跳躍やスティック・スリップの発生はなく,微小荷重下における摩擦測定が可能であることを確認した.これによって,開発した摺動子によって,ナノ分子膜の摩擦現象を高精度に測定できる見通しを得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の要は,ガラスボール表面のナノレベルの平滑化を実現することであり,これまでにGCIBの加工条件をパラメータにした検討により,最適な加工条件を見いだしており,また目標とするサブナノメートルを達成した.さらに摺動子アセンブリについても,高精度測定の阻害要因となっていた摩擦励起振動を抑圧するボール・支持バネの構成法を考案して,跳躍振動やスティック・スリップの大幅な抑圧に成功した.
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今後の研究の推進方策 |
ボールの平滑化については,耐久性の高い摺動子を提供するため,GCIBアシストでDLCタフカーボン膜を被膜する場合を対象として,加工条件の最適化を行う.また,開発した摩擦摺動子をナノ潤滑膜評価装置に組み込んで実用性能を評価する.これまでの研究で,表面粗さの範囲を大きく変えた摺動子が入手可能になったことが大きな収穫であり,評価試験としては,まずナノ分子膜において,摺動子のナノ粗さの摩擦摩耗に及ぼす影響を解明する実験を優先的に実施する.また摩擦振動の抑圧効果に優れた摺動子・支持ばね構成法の特許化の可能性を検討するとともに,粗さをパラメータとする摺動子をシリーズ化して汎用製品として商用化できるか,についても模索する.
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