1) 摺動子アセンブリの構成と分子潤滑膜の形成 重フリント系ガラス球(直径2 mm)の先端を0.5 mm付き出した摺動子アセンブリを作成した.このガラス球の先端部に, Arドーズ量をパラメータとしてGCIB加工を行った(4水準).また走行面として,2.5インチの磁気ディスクを用い,分子膜厚さの無極性PFPE Z03(分子量4000 g/mol)を表面に塗布した.これらの試料を実験装置に組み込んで,摩擦摺動実験を行った.本実験の特長は,摩擦力の作用点と摺動子の支持点との不一致量(摺動子の突出量)を減らすことによって,摩擦励起による振動抑圧に成功して,速度効果の測定を可能にしたことである(特許出願). 2) 分子潤滑膜の摩擦に及ぼすナノ面粗さの影響 Arドーズ量の増大にともない平滑化作用が顕著になり,結果としてRz=6.16 ~ 0.38 nm,Ra=1.7 ~ 0.19 nmの4水準の試料を得た.ナノ面粗さの効果は,膜厚が薄い(3.6 nm→0.88 nm),周速が速い(0.002 m/s→0.2 m/s)ほど,顕著になり,それぞれ,粗さの減少とともに,増大することを明らかにした. 3) 分子潤滑膜の摩擦に及ぼす速度効果 潤滑膜を塗布した後にUV照射を行い,その照射時間によってディスク表面に固定される潤滑膜(固定膜)の厚さを変え,また全体の膜厚さが1.3 ~ 1.4 nmとなるように塗膜厚さを調整して,速度効果を測定した.固定膜がないあるいは極めて薄い場合には,摩擦係数が速度に対して単調に増加した(指数関数的増加).一方,固定膜が厚い場合には,低速の場合には摩擦係数は大きいが,速度とともに緩やかに増加し,飽和する傾向を示した(対数関数的増加).この特性は,固定層の上に存在する流動層の厚さに依存して,摩擦のメカニズムが変化することを示唆している.
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