研究概要 |
平板上に発達する乱流境界層において,壁面微小孔からのパルスジェットにより励起される撹乱を周期平均により抽出し,どの程度の下流まで抽出できるかを調べた.その結果,撹乱孔から20mm程度下流までは撹乱が抽出でき,境界層中のごく壁面近くで撹乱が成長することが観察されたが,それより下流では撹乱成分が弱くなって観察しにくくなり撹乱がその後外層まで達するかどうかは確認できなかった.抽出成分が小さくなる理由として,励起したストリーク状の撹乱がスパン方向に動き,撹乱で励起される速度変化が平均により平準化し,結果として周期平均値が弱められていることが上げられる.この問題を解決するため,スパン方向に並んだ圧力センサーとの組み合わせによる,条件付きサンプリングが必要となるが,それを行うには圧力センサーの感度が不十分であった.そこで既存のセンサーを高感度で小型なMEMSマイクロフォンに交換し,さらに壁からの導管が短くかつ十分な断面を持つ圧力センサーアレイを開発した.このセンサーはS/N比が高く,周波数領域が広いことに加え,センサー内部でデジタル信号に変換されることで信号線から入るノイズがなくなり,そのため時間スケールが小さく微弱な圧力変動にも十分な感度があると期待される. 予定していたイタリアの大型乱流円管流の設備工事が遅れ,本申請期間中には供用が開始されないことがわかった.そこで,他の大型風洞等でのせん断乱流で測定できないか,調査を行ったが,借用料が高いことや利用期間が限定されていることから,その使用を断念した.今後の研究は既存の低レイノルズ数乱流境界層における測定に集中することとした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高レイノルズ数のせん断乱流での申請期間中の測定は断念せざるを得ないが,新しい超小型MEMSによる圧力センサーアレイの開発に成功しており,このセンサーにより比較的低いレイノルズ数の乱流境界層でも十分有意な測定が可能で,当初の目的は達成できると思われる.よって,研究全体としてはおおむね順調と言える.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では新規開発した圧力センサーアレイとI型熱線プローブを用いて,流速変動の条件付き周期平均量の測定を試みる.実験を行う乱流せん断流としては,レイノルズ数がやや低いもの信州大学の風洞での乱流境界層を用いる.条件付き周期平均量の分布を調べ,励起された撹乱が外層に達するのか,その場合どのような撹乱形状となるのか,詳細に調べることとする.
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