研究概要 |
当該研究は,地球に生息する動物の食物連鎖の下層を支えている比較的小さな動物や植物が,他の動物などの餌となりながらも,地球の永い生物進化の歴史を通じて,種として現在も生存繁栄している生物の基本的な原理を,それらの生命が脅かされるような極限状況下にさらされた場合に示す運動および運動器官の形態構造を調べ,それらの関連性を流体力学的に解析・究明することを目的としている。さらに,その成果として得られる生物の有する優れた機能,機構,構造,形態などをバイオマイクロメカニズムの構築に応用展開するものである。 計画第2年度の成果として,陸生で海浜に生息し鳥などの餌となって物質循環の中で海と陸を結びつけている体長が5~10mm程のハマトビムシが自身の体長の数十倍も跳躍することや水中では巧みに遊泳することが明らかにされ,そのメカニズムが工学的に解明された。しかも,跳躍の際の地表面の粗さと跳躍距離の関係なども明らかにされ跳躍器官の構造と機能の関連性も定量的に解明された。これらの成果は,体節制をとる生物の特異な付属肢の進化が,個々の生物の運動に合わせて高機能化している事実を明確に示している.さらに体長が1mm程度と小さい粘管目昆虫トビムシに関しても研究を進め,流体力学的には極めて低レイノルズ数領域であるにもかかわらず,自身の体長の百倍以上もの距離を瞬時に高速移動する事実も明らかにされた。植物に関しても,開閉花弁細胞が枯死に至るときの細胞表面の変化が加工学的な観点から解明された.現在,生物運動の原理によるマイクロ機器の応用開発を進めている。微小生物運動に観察される周期的運動器官の動きをマイクロメカニズムに取り入れた幾つかの機器の開発に取り組み,磁性流体と微小な永久磁石を用いて非接触エネルギー供給方式で駆動するアクチュエータの特性などについて実験的データーが得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該計画の申請時における平成23年度計画にあげた(1)微小生物の運動器官の構造計測および運動の数値モデルの構築と解析,(2)小植物の花のがく片・花弁の表面微細構造計測と切断頭花のサーカディアンリズム解析は光学顕微鏡・レーザ顕微鏡や高速度ビデオカメラなどを使用した解析により計画通りに実施され,当初に予想していない結果が得られている。特に植物に観察される頭花の開閉運動における細胞間の微小量の水移動の効果などに関して,マイクロ流体力学的な観点からのさらなる研究展開が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は計画最終年度でもあることから,申請時に提出した研究計画を実行するとともに,昨年度の成果に基づき植物細胞の時間変化の定量的計測などに関して,当初の計画以上に研究を推進し,力学的な観点からの植物機能・植物運動機構を明らかにし,生物特有の法則性の解明に挑戦する。また,さまざまな生物機能・機構を応用したマイクロメカニズムの試作を進め,成果の応用展開をはかる。さらに,研究成果の積極的な学術講演会での発表や論文作成に努め,研究成果の社会還元を意識した研究展開を進める。
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