研究概要 |
本研究の目的は、伝熱面近傍の気液挙動の詳細な測定を通して,濡れ性の向上による限界熱流束促進機構を明らかにすることである.これにより,原子炉熱流動の分野で大きな注目を集めている,ガンマ線照射によって濡れ性が向上する「RISA効果」による限界熱流束の促進を定量的に予測しうるモデルを構築するとともに,高熱流束機器の受動的除熱法として大きな可能性のある「ナノ流体」による限界熱流束の促進について,その促進効果を最適化するための見通しを得ることが目的である.本年度は,ナノ流体による限界熱流束促進機構を検討する実験を実施した, 実験に用いた沸騰容器は内径150mmで,容器底部には直径12mmの銅製上向き伝熱面が設置され,その上部に気液挙動測定用の触針プローブが設置されている.ナノ流体による限界熱流束の促進は,ナノ粒子の伝熱面への析出により濡れ性が向上することで生じるため,あらかじめ伝熱面にナノ粒子を析出させ,作動流体にはナノ流体ではなく水を用いて実験を行った.ナノ粒子には直径25nmの酸化チタンを用いた. ナノ粒子析出面の限界熱流束は,清浄面に比べて約2倍に促進され,ナノ流体を用いた限界熱流束促進法の工学的有用性が確認された.触針プローブによる測定の結果,清浄面,ナノ粒子析出面とも伝熱面を覆う合体泡下に液層の存在が確認された.ただし,ナノ粒子析出面の液層厚さは,清浄面に比べて顕著に厚くなることが明らかになった.この違いが,ナノ流体による限界熱流束促進の要因と考えられる.厚い液層が形成される機構を検討するため,5~10気圧の範囲で発泡点密度の測定を行った.高圧で実験を行う目的は,発泡点を増加させ気泡径を減少させることで測定精度を向上させるためである.測定の結果,ナノ粒子析出面の発泡点密度は清浄面に比較して1/2~1/3に減少することが判明した.このことが,ナノ粒子析出面で厚い液層が形成される大きな要因である可能性が高い.
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