本研究の目的は,空調機や燃焼器など各種熱流体機器から排出される気体の温度分布を,簡便かつ定量的に可視化計測できる「流体温度場スキャナ」を開発することである。本研究では,研究代表者らが独自に開発した「温度センサの適応応答補償」を基礎として,これに「プローブの画像位置計測」を融合させることで,安全で取り扱い易くかつ適用範囲の広い流体温度場の可視化計測法を実現する。本年度の研究実績は次のとおりである。 1. 研究代表者らが先に開発した二線式熱電対法を基礎として適用応答補償を実現する.本年度は,実用性の向上を重視して,より丈夫な素線径51 μmと75 μmのK熱電対で構成される二線式熱電対を採用した。細線熱電対の素線径が大きくなると耐久性は向上するが,応答遅れが増大するために,応答補償法の優劣が測定結果に顕著に現れる。本研究では,51 μmと75 μmを組み合わせた二線式熱電対によっても,先の25 μmと51 μm の二線式熱電対と遜色のない測定結果が得られることを実証した。また,この二線式熱電対24組を直線上に4 mm間隔で配置した温度プローブを製作して,ヘアドライヤーから噴出する高温空気噴流の二次元温度分布を空間分解能4 mmで可視化計測することに成功した。 2. プローブ位置の画像計測,二線式熱電対法による時定数の推定と適用応答補償,計測対象画像上に二次元温度分布を重ねて提示する画像処理などを実行するソフトウェアを改良して,データ処理の利便性と柔軟性を向上させた。 3. 本計測法の基礎である細線温度センサによる温度測定の信頼性をさらに高めるために,温度センサの軸方向熱伝導に起因する測定誤差を理論的に予測できる普遍性の高い手法を開発し,その有効性を実証した。 以上により,「流体温度場スキャナ」の基礎技術を確立するとともに,測定精度の改善と実用性の向上にかかわる支配要因を明確にした。
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