研究概要 |
SOIウエハから電気的ならびに熱的に孤立したSi自立膜を生成し,電流印加による自己発熱で微細孔構造をもつSiの面方向熱伝導率と電気抵抗率を同時測定した.結果として,従来の経験式で整理できる電気伝導度と非常に小さくなった熱伝導率が測定された.平成23年度は熱伝導率測定の精度について詳細に検討するため,微細孔の割合やサイズ,間隔,配置パターンを変えて実験した.結果,液体窒素温度程度の低温でも,Siにおけるフォノンの平均自由行程は数μmオーダーと長いこともわかってきた.上記結果を得るため,具体的に以下の項目に取り組んだ. 測定用デバイスの作製:SOIウエハのSiO2層を犠牲層に利用,自立膜パターンを作製した.歩留まり率が悪く,実験データーが不足していたが,本年度は酸化膜と窒化膜をプロセス中で積層することで,構造物に残留応力を減らし目的の構造を効率よく作製できるようプロセスを改善した. 物性測定:作製した特殊チャンバーにより,-120℃から室温付近までの微細構造Si薄膜の熱伝導率,電気伝導度を測定した.測定結果と文献値,解析値を比較し,妥当性や測定法の精度について検討を進めた。測定された低い熱伝導率は,充填率だけで整理されてきた従来の見かけの熱伝導率予測式では説明できず,特に孔配置を千鳥状としたサンプルの低い熱伝導率については,フォノンが準弾道的に輸送されていることを示していた.このようにフォノンの平均自由行程は,電子の平均自由行程よりも非常に長いことを確認した. 温度測定:上記結果を検討するため,非接触の赤外線温度計の利用で平均温度を測定して,測定精度をについて検討した.さらに,これまでフォノン輸送解析で得られてきた強い非平衡現象に起因する温度分布をSThMにより直接測定することを計画し,微細構造と熱伝導率低減現象の実測に取り組んだ.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
歩留まりの悪かったプロセスを大幅に見直すことで,測定サンプルを増やし,測定精度を議論するまでに至った.フォノン輸送と電子輸送の観点から研究を進めているが,測定精度が高まったことにより,これまで着目されてこなかったフォノンの準弾道輸送と特殊な熱物性との関連を考察することもできるようになってきた.国際会議でもアクセプトされ,その成果は国際的な学術雑誌にも掲載されており,当初の計画以上に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
熱伝導率の測定精度と人工的な熱伝導率発現メカニズムが直結しているため,熱伝導率測定を変えることでダブルチェックを掛ける予定である.これは当初の研究計画にはなかったが,研究室の近年の測定ノウハウ獲得から計画できる内容となった.他,構造についても従来のリソグラフィー技術ではなく,ブロックコポリマーの自己組織化によるパターン生成など,新しいことにも取り組みながら,強い非平衡状態を生み出して極めて低い熱伝導率を得ることにも取り組む予定である.
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