計画通り,SOIウエハーを材料として,一般的な微細加工技術により自立形状のSi薄膜を生成し,通電加熱することでSi薄膜の面方向熱伝導率と導電率を同時測定した.測定結果に対し,熱流体数値解析シミュレーションソフトを用いてジュール発熱を伴うSi薄膜の熱輸送を計算し,16%程度の誤差で熱伝導率を測定できていることが明らかとなった.いくつかのマイクロサイズの孔を有するSi薄膜の熱伝導率,導電率を測定したところ,導電率は古典的なMaxwellモデルで説明できる程度の低下だったことに対し,熱伝導率の低減は非常に大きく,拡散輸送モデルから大きく逸脱していた.熱伝導率の温度依存性については,低温で熱伝導率が横ばいとなっており,構造の影響を強く受けていた.特に孔を千鳥状に配置したSi薄膜では最も大きく熱伝導率が低減しており,Euckenの式といった拡散輸送モデルでは説明できない結果であった.このような結果に対し,熱を輸送するフォノンの平均自由行程を孔の無いSi薄膜実験結果とFS理論をフォノンのKn数を使ってフィッティングして求め,室温でフォノンの平均自由行程がおよそ3マイクロメートルと極めて長いことを突き止めた.薄膜の熱伝導率測定については,レーザー周期加熱法による実験で測定値をダブルチェックした.得られた平均自由行程を用いて,孔を有するSi薄膜の横方向熱伝導率をフォノンのスペクトル解析を用いて計算したところ,実験と解析でよく一致した.これらにより,マイクロメートルオーダーの構造でも,材料がSiで室温付近であれば,フォノンによる熱伝導は準弾道的な熱輸送現象になっていることを実験により示した.以上のようにマイクロ微細構造で電気を輸送するエレクトロンと熱を輸送するフォノンの輸送を人工的に制御できることが明らかとなり,例えば熱から直接発電する熱電半導体の高効率化へ応用できる基礎的な成果を得た.
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