研究概要 |
高温面のぬれ回復機構の定式化は,遷移沸騰の素過程の理解に不可欠なだけでなく高温面の沸騰冷却を利用する工業的応用面からも重要である.本研究の目的は,高温面上の固液接触面に形成される二相界面或いは三相境界線上の局所の温度・熱流束変化測定と高速度同期撮影を行い,固体側の非定常熱伝導と連成した非定常沸騰の観点に基づいて,固液界面のぬれ状態が乾き状態への移行に必要な固体側の熱的条件を明らかにすることである. 本年度は,Ni円板表面上の薄膜熱電対の形成プロセスを改良して固体表面直下3μmの測温点でのステップ応答時間を200μsまで改善し、熱伝導逆問題解析プログラムを開発した。非沸騰条件で固液接触開始後の表面温度と表面熱流束の測定値は、非定常熱伝導の解析解とよく一致していた.沸騰実験での表面温度・表面熱流束変化は、測温点近傍での10kHz程度のぬれや乾き状態の変化に十分追随しており、研究遂行に必要な計測性能達成を確認した. 液滴衝突速度と高温面初期温度をパラメータとする最大230℃まで加熱したNi円板の測温点上へのエタノール単一液滴の滴下実験を実施し,固液接触後の非定常沸騰状況に対応した表面温度・表面熱流束変化に注目した解析を行った.その結果、初期温度がエタノールの自発核生成温度(約190℃)付近を境に固液接触直後のぬれ状態から乾き状態への遷移時間と到達熱流束に大きな相違を見出した.高温域と低温域での乾き面へ遷移時間は、それぞれ1ms以下と数ms~数十msであった.高温域では高密度で微細気泡の急速成長・合体で生じる薄液膜の形成と消耗,低温域での通常の核沸騰が発達する状況下での液膜破断が各温度域での乾き面が出現のトリガーとなっていた。前者の液膜消失直前での熱流東は10MW/m^2にi到達したが、後者では高々1MW/m^2であった.各温度域の境界とぬれ状態が維持可能な固体側の熱的条件について,局所の積算熱流束値を用いた定式化を検討しているところである.
|