研究概要 |
本研究は,高周波交流磁場中における磁性ナノ・マイクロ粒子のヒステリシス損に起因する発熱現象を利用し,これと外部磁場による磁性粒子マニピュレーション法を組み合わせて新規ナノ・マイクロスケール局所加熱法を開発しようというものである.今年度(平成23年度)の研究成果概要を以下にまとめる. (1)磁性粒子を用いたナノ・マイクロスケール局所加熱法の開発 回転磁場による磁性粒子のマニピュレーションおよび高周波交流磁場による磁性粒子の加熱が同時に実行可能なコイルシステムを作製した.これは,磁性粒子をマニピュレーションするための回転磁場を発生する3対のコイルと,粒子を加熱するための高周波交流磁場を発生するコイルから構成される.このコイルシステムを用い,本加熱手法の検証実験を行った.本実験では,粒子の発熱の可視化に感温性蛍光分子を用い,磁性粒子の運動および高周波交流磁場中における粒子の発熱を顕微鏡にて観察した.本研究において作製した前述実験装置によって,粒子の位置操作ならびに粒子周辺の局所領域の加熱が可能であることが確認された. (2)バイオ・医療への応用化検討 酵素の磁性粒子への固定化,および高周波交流磁場中の粒子表面の酵素反応を解析した.昨年度までにアミラーゼを用いた予備実験を実施しているが,今年度はより詳細な解析を行った.まず,粒子表面に固定化したアミラーゼ分子数の平均値を評価し,固定化がアミラーゼの特性におよぼす影響を解析した.その結果,粒子への固定化によってアミラーゼの活性が上昇し,また耐熱性が向上していることがわかった.高周波交流磁場の印加によって,粒子表面のアミラーゼは加熱されてその活性がさらに上昇する.本研究では,耐熱性キチナーゼを磁性粒子表面に固定化し,アミラーゼ同様に交流磁場の印加による加熱・活性化に成功した.
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今後の研究の推進方策 |
今後もさらに本加熱手法の検証実験を継続して行い,より定量的なデータ収集に努める.特に高周波交流磁場中の粒子表面温度の定量化が必要であり,これまでの感温性蛍光分子と蛍光顕微鏡を用いた手法に加え,磁性粒子/酵素複合体を利用した評価法も新たに導入し,同時に進める.また,本手法のバイオ・医療への応用化としては,酵素の磁性粒子表面への固定化,および交流磁場中において磁性粒子の発熱が粒子表面の酵素反応におよぼす影響について解析を行ってきたが,これも継続して行い,PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法による遺伝子増幅への応用化について検討を行う.
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