研究概要 |
近年,兵庫県南部地震(1995)や新潟県中越地震(2004)などをはじめとする大規模な地震が多発しており,一般家屋もさることながら産業施設内構造物の被害も多く報告されている.産業施設内構造物は2次的な災害が懸念されるため,一般家屋とは異なる耐震設計基準が定められている.産業施設内構造物の耐震設計では,線形系が主体とされているが,摩擦,衝突,弾塑性などの非線形特性は,振動エネルギを散逸するため,応答低減効果があることがわかっている.そこで,申請者は非線形特性の1つである摩擦特性に注目した.これまでの研究から,実地震波の入力レベルを変化させたときの摩擦系の加速度応答計算において,ある入力レベルで応答低減効果が顕著となる場合があることを明らかにした.すなわち,摩擦支持構造物の摩擦力を適切に設定することで,応答低減効果が顕著になる.そこで,本研究では,この効果を積極的に利用した摩擦系の耐震設計法を開発することを目的とする.本研究では,こうした背景を踏まえて,次の研究項目を遂行する. (1)長周期摩擦系応答スペクトルの提案,(2)摩擦を考慮した耐震設計指針の提案,(3)提案した耐震設計指針の実験的検証,(4)2自由度連成系におけるモード固有振動数,モード減衰比の簡易推定法の提案,(5)摩擦支持2自由度連成系の耐震設計指針の提案 本年度は昨年度に引き続き,「(3)提案した耐震設計指針の実験的検証」を行った.提案している,摩擦系応答スペクトルは,数値解析に基づいているため,実際の現象と一致しているか不明である.そこで,提案した耐震設計指針が適切であるか実験的に検証する,ここでは,しゅう動面に摩擦係数の小さいPTFEを用いた免震装置を作成し,長周期摩擦系における応答低減効果の実証試験を行った.また,数値解析結果との比較を行い,誤差10%以下で一致することを明らかにし,摩擦系応答スペクトルの妥当性を検証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で最も重要と判断しているのは,提案した摩擦系応答スペクトルが妥当なものであるか否かである.前年度に1自由度系の簡易摩擦系実験装置を作成して振動試験を行った.本年度は装置を改良し,耐震設計指針で用いられている第1種地盤から第4種地盤に対応した模擬地震波を作成して実証試験を行った.これと並行して,1自由度摩擦系の数値解析を行った.実験結果と数値解析結果を比較したところ,おおむね10%以下の誤差で両者は一致したことから,提案した摩擦系応答スペクトルの妥当性が検証された. 以上のことから,本研究で重要視している項目を達成することができたことから「(2)おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として,研究項目の(4)2自由度連成系におけるモード固有振動数,モード減衰比の簡易推定法の提案,(5)摩擦支持2自由度連成系の耐震設計指針の提案を行っていく.産業施設内構造物は支持構造物上に設置される場合があるため,2自由度系としての扱いとなる.機器類,支持構造物それぞれの固有振動数や減衰比は設計段階で得られている場合が多く,機器類が支持構造物上に設置された場合には,振動実験や固有値解析などを実施しなければモード固有振動数やモード減衰比は得られない.そこで,機器類,支持構造物の固有振動数や減衰比から簡便に2自由度系の固有振動数や減衰比を得る方法を提案していくとともに,摩擦が介在した場合の2自由度系の耐震設計指針を構築していく.
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