研究概要 |
本研究の目的は,声帯振動で引き起こされる呼気の噴流による渦輪が声門波を発生させることに着目して人の発声機構をモデル化し,その解明を行うことである.本年度の研究は,人の発声時の声帯振動によって発生する呼気流速と圧力変動の測定実験と,発声機構のモデル化を実施した. 本年度の人での実験は,声門直上,声門上方の仮声帯上部の喉頭蓋内と喉頭蓋上方,さらに,咽頭部で呼気流速と圧力変動の測定を実施した.また,高速度ビデオカメラで声帯振動を記録するとともに,記録した画像から呼気流速の測定位置を求めた.実験で得られた3名の被験者の声帯直上の呼気流速分布を詳細に検討した結果,以下のことが明らかとなった.(1)呼気の平均流速は,声門直上が最も大きく,声門から上方に離れるに従って急速に低下する.また,平均流速に現れる声帯開閉周期の流速変動も同様に低下する.(2)声門直上の呼気流に含まれる高周波の流速変動成分は,声門から上方に離れるに従って急速に低下し,咽頭部ではほとんどみられなくなる.(3)以上の結果より,発声機構のモデル化に最も重要で基本的な要素は,声門直上での声帯開閉周期での呼気流速変動と,これに含まれる高周波の流速変動成分である. これらの人での実験結果より,発声機構の最も基本的なモデルは,数百Hzの噴流とこれによる高周波の渦輪を発生させる機構と,咽頭,口腔,鼻腔に相当する共鳴箱で構成すればよいことが明らかとなった.この結果に基づき,高周波の噴流を発生させる高速駆動が可能なソレノイドバルブと,断面積と長さを変化させることができる共鳴箱で構成した高周波の噴流を発生させる実験装置を製作した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
声門直上から咽頭部までの音圧測定を,当初の計画では医療用の圧力センサを用いて実施する計画であったが,十分な感度が得られないことが明らかとなった.このため,音響用のマイクロフォンを内視鏡に取り付けたプローブ型マイクロフォンを新たに製作した.この製作に時間を必要としたため,若干計画より遅れているが,今後は計画通り進展できる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で,咽頭,口腔,鼻腔を含めた発声機構のモデル化に最も重要で基本的な要素が明らかとなった.今後は,声帯部で発生した声門波と口からの放射音との関連を明確にするため研究を推進する.
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