本研究は、従来ほとんど活用されていない同期発電機内部の空隙磁束および制動巻線電流を積極的に活用した新しい電力系統解析モデルを構築して、電力系統の解析並びに運用技術の高精度化に資することを目的とした基礎研究である。本年度の成果は以下のとおりである。TCSC(サイリスタ制御直列コンデンサ)に関するものと同期発電機空隙磁束に関するものとに大別される。 (1)前年度に引き続き、TCSCによる系統安定度向上効果について、TCSCを構成するコンデンサ容量CとインダクタンスLの構成を種々変更して、一機無限大母線系統で、その効果の変化を実験的に検証した。LとCの組み合わせによっては不安定現象が発生する。またサイリスタ点弧角を適切に制御することにより系統安定度を向上させることができることを実験的に検証した。 (2)同期発電機内部の空隙磁束は、起磁力分布とパーミアンス分布の積で求められる。起磁力分布は、界磁電流が作る空間起磁力分布と電機子電流が作る空間起磁力分布のベクトル和である。またこれを理論的に求められるようにするためには、いわゆる直軸位置の決定が必要である。対象同期発電機の諸元から以上の各分布波形を数式表現し、直軸位置を考慮して空隙磁束を求めるための理論モデルを、Matlab/Simulinkシミュレーションモデルとして構築した。 (3)同期発電機の定常状態及び電力系統事故時など数種類の運転および系統条件において、実験的に求めた空隙磁束波形と上記シミュレーションモデルによる空隙磁束波形がほぼ合致することを確認し、モデルは妥当であることを示した。 (4)以上の方法を、電力系統に発生した事故の種類を把握する手法として応用できることを実験及びシミュレーションで確認した。
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