研究課題
真空中の沿面放電では二次電子なだれによる絶縁物表面の帯電が放電の引き金になると考えられている。一方、真空沿面放電には顕著なコンディショニング(火花化成)現象があり、コンディショニングの初期には極めて低い放電電圧を示すが後期の放電電圧は数倍も高くなり、コンディショニング初期と後期とで放電のメカニズムが異なる可能性がある。帯電現象と放電破壊が如何に関連するかの機構は不明確なままであり、帯電量と放電電圧の関係、放電回数の増加に伴う絶縁体表面の吸着ガス状況の変化など、従来とは異なる観点から放電進展機構を解明する必要がある。本研究はこのようなコンディショニング現象と放電機構との関係を明らかにし、真空遮断器の絶縁設計などに極めて重要な現象を明らかにすることを目的としている。研究実施計画に基づいて本年度は(1);種々の長さの円柱型絶縁物試料に対し、室温において直線上昇直流電圧を印加し、陰極に設けたリング状静電プローブを用いて帯電による陰極電界を測定し、放電電圧-陰極電界強度の特性を検討するとともに、開発済みの二次元帯電電荷シミュレーションプログラムを用い、上記試料の帯電分布および陰極電界を計算し実験結果との照合をおこなった。また、絶縁物の形状を円筒型に変えて、可動型静電プローブによる帯電分布の計測も行い、シミュレーション結果と実測結果とが良く一致することを示した。(2);帯電進行時に絶縁物表面から電子刺激によって脱離する気体分子の量がある値に達したときに沿面放電が発生するというPillai等の理論を検証すべく、上記(1)の帯電分布の計算結果と、仮定した脱離分子量の臨界値とにより放電電圧を計算した結果、放電電圧の試料長さ依存性に関する実験結果と一致することを示した。これより、この放電理論はコンディショニング後期の放電機構に適用できるものと推認できた。このほか、(3);吸着ガスの量や種類を推定するための実験系の構築、(4);放電進展を観察するための放電経路を任意に制御する実験系の構築などを進めた。
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