研究概要 |
昨年度,製作したダブルパルスシステムを用いることで,実験の当初用いた単発の高電圧矩形波パルスのみを用いた結果と比べると,化学物資(シクロヘキシミド,アクチノマイシンD)の導入量を増加できることが確認された。しかしながら,導入量のさらなる増加や分子量のより大きな物質を導入をするためにダブルパルスの低電圧長パルスの振幅やパルス幅を広げた場合,受精卵に対する電気パルスの影響が大きくなることが分かり,ダブルパルスのままでは,導入量の増加は困難であることが判明した。 そこで,本年度は,受精卵に対する電気ダメージを抑えつつ,投入エネルギーを増加することが可能となる新しいパルスシステムを設計製作し,その有効性について調査した。非対称バーストパルスシステムと名付けた新しいシステムは,高電圧短パルスの前に印加する低電圧長パルスとして正負両極性のバースト型パルスを発生できるものである。このとき,正負パルスごとに,振幅とパルス幅を異なる値に設定できる回路とした。また,パルス印加時にメダカ受精卵を設置する反応容器(リアクタ)の形状も,従来の平行平板電極から,片方の電極にレール型突起をつけた非対称電極としたものを新たに製作した。 非対称バーストパルスシステムを用いて,正極性パルス(300 us, 30 V)と負極性パルス(30 us, 35 V)を1セットとしたバーストパルス100セットを印加し,その100 ms後に,高電圧短パルス(100 ns, 3 kV)を印加することで,メダカ受精卵に対して,電気ダメージの増加はほとんどなく(コントロールの死亡率20%),一方でシクロヘキシミドやビスフェノールといった化学物質の導入量を大幅に増加できるという結果が得られた。また,非対称電極を用いることで,物質導入について,平行平板電極を用いたときよりも少ないエネルギーで,同様またはそれ以上の結果が得られた。
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