研究概要 |
本研究は低コスト・省エネルギープロセスとして静電スプレー堆積法を採用し,高効率な太陽電池を開発することを目指したものである.半導体材料としては,2層タンデム構造の理論効率が最大となるEg=1.5eVのCuInS_2,Eg=1,9eVのγ-In_2Se_3を候補とした.23年度は抵抗率制御と窓層用薄膜の作製および積層構造薄膜の成長と評価を研究実施目標にあげて研究してきた. 1、.CuInS_2の伝導形制御については,低抵抗のCu_2Sが析出しないCu/Inモル比領域で,n形からp形に変化した付近のCu/In比=0.95での各種不純物ドーピング(Zn,Sn,Ge)の効果について検討した.ホール効果測定からこのCu/In比では,Snの場合再現性よくn形にすることは困難であること,ZnおよびGeでは投入量によってn形になる範囲があることが判明した.これは各不純物がどの原子サイトに入りやすいのかによる.また,Cu/In比を大きくしていくと抵抗率が減少していくことも明かとなった.γ-In_2Se_3についてはZnをドープすることで伝導形がp形に反転することを昨年度に見いだしたが,今年度はSnをドープしたn形薄膜での抵抗率のドープ量依存性を明らかにした. 2.窓層半導体として有毒なCdを含まないIn2S3の成長条件の確立と成長条件と電気的特性の関係を明らかにした.この結果成長温度が300℃以上では正方晶の安定して成長することが明らかとなった.また,原料溶液に投入するSが1.5~5の範囲では結晶構造はβ-In2S3のままであり,成長温度が上昇するにつれて抵抗率は減少すること,Egは成長温度やS投入量に依存せず2.64eV一定であることが判明した. 3.多層薄膜成長については,ZnO透明電極/n形In_2S_3/p形CuInS_2ヘテロ接合積層薄膜を作製した.暗時のダイオード特性は良好であるが,擬似太陽光下での特性はシャント抵抗が低いため悪い.良好なダイオード構造の作製と電気的特性評価は来年度に重点的に行う予定である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
太陽電池構造を作製する上で重要となるp,n伝導形の制御はほぼ完了した.また,トップ層,ボトム層,窓層の各半導体薄膜の成長条件は明かとなった.太陽電池としての積層構造の作製についてはおおむねの目途は立った.しかしながら太陽電池としての特性評価はまだ十分ではない.これについて来年度重点的に研究を進める予定である.
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度までに得られた各半導体の成長条件,不純物ドーピング条件を基に太陽電池構造の積層薄膜の成長とそのダイオード特性の測定評価を重点的に行う.太陽電池構造は,In_2S_3/γ-In_2Se_3/,In_2S_3/CuInS_2ヘテロpn接合構造,γ-In_2Se_3,CuInS_2ホモpn接合構造,In_2S_3/γ-In_2Se_3/CuInS_2pn接合タンデム構造の各種とする.AM1.5の照射光の下での電流-電圧特性による太陽電池特性評価と各接合界面のXRDやSEM観察などによる構造評価を総合して,高効率太陽電池実現をめざす.
|