研究概要 |
ヘテロ接合界面の2次元電子ガスを用いたAlGaN/GaN高移動度トランジスタ(HEMT)は電力損失の大幅な低減と高温動作が期待できる高耐圧・高出力パワーデバイスとして有望であるが、ヘテロ界面近傍に存在する欠陥準位によりスイッチング特性が不安定となる問題(電流コラプス)に直面している。本年度は、単色分光照射による光励起を利用したフォトキャパシタンスの過渡応答特性からAlGaN/GaNヘテロ接合界面近傍の欠陥準位を計測するDeep-Level Optical Spectroscopy(DLOS)計測装置を試作した。また、MOCVD(有機金属気相成長)法の結晶成長温度をパラメータとして電流コラプス量が大きく異なるAlGaN/GaNヘテロ構造を作製し、フォトルミネッセンス(PL)測定,光照射有無の容量-電圧(C-V)測定,DLOS測定から、欠陥準位と電流コラプスの相関を検討した。電流コラプス量が大きいほど、伝導帯下~2.07,~2.80,~3.23eVに位置する3つの欠陥準位密度が大きくなることがわかった。特に、~2.80eVの欠陥準位はPL測定で一般的に観察されるイエローバンドに対応し、その起源であるGa空孔と炭素の複合欠陥の量が電流コラプス現象に強く関与していることが示唆された。これらの結果は、窒化物半導体の一般的な成膜法であるMOCVD法では不可避な残留不純物である炭素濃度が多いほど電流コラプスが起こりやすいことを意味している。したがって、AlGaN/GaNヘテロ接合界面の高品質化のためには、残留炭素濃度と電流コラプスの更なる相関検討が必要であり、残留炭素濃度をコントロールする結晶成長指針を抽出することが今後の課題である。
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