研究概要 |
近年、精密加工用レーザー加工機の普及に伴い、各種レーザー光源には高出力のものが求められると同時に光源の安定化と破壊防止への対応が必要とされている。光アイソレーターは光源の安定化と破壊防止を担う重要なデバイスの一つであり、光源の高出力化に伴いその重要性が更に増している。そのためレーザー耐性を有し、幅広い波長域で利用可能な光アイソレーター用の材料が必要とされている。従来、適度な特性を有するTb_3Ga_5O_<12>(TGG)単結晶が注目を集めてきたが、ファラデー回転角不足、結晶育成が比較的困難、コスト高、などの問題点も指摘されている。Tb_3Al_5O_<12>(TAG)はTGGよりも大きなベルデ定数を示すが、非調和溶融組成を持つため結晶育成は困難を極め、直径2.5mm、長さ30mm程度が限界であった。そこで本研究では高出力化・広帯域化する光源を有するレーザー加工機に対応した光アイソレーターを実現する新しい磁気光学単結晶の開発を目的とし、実用化の前段階となる試作品の製作を目指すこととする。 本研究ではTAGをベースに新しい磁気光学単結晶Tb_3(Sc,Lu)_2Al_3O_<12>(TSLAG)を開発した。これはTAGのAlの一部をScとLuで置換したものであり、TAGとTGGの長所を併せ持つと期待して設計したものである。単結晶育成は高周波誘導加熱型CZ装置を用い行った。結晶成長条件を特に制御することなく、比較的容易に直径18mmの単結晶が得られた。各種の精密な測定を行うため大型化を試みたところ、直径1インチの単結晶まで得ることができた。成長結晶から長さ10mm強のバルクを切り出し、結晶の内部観察を行ったところ、多くの光学的歪が観察された。アイソレーターとして利用するためにこうした光学歪の除去が必要であるため、高品質化を試みた。その結果、光学的均質性の高いTSLAG単結晶を得ることができた。得られた結晶の消光比を測定したところ、40dB以上の値が得られた。TGGの市販レベルが35dBであることを考えると、これはかなり高い値である。次に得られた結晶のベルデ定数を精密に測定したところ、波長によってはTGGの1.3倍を超える大きな値を示した。更に透過率を精密に測定し、TSLAGの性能指数を求め、TGGのそれと比較を行った結果、TSLAGの圧倒的な優位性が示された。
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