本研究は、高耐電力超伝導フィルタを試作するために、3次元マトリックス線路を提案し、その有効性を検証するものである。超伝導マイクロストリップ線路(SMSL)の耐電力は、線路端に流れる集中電流値の大きさに制約される。これを低減できれば、耐電力の大きなマイクロ波デバイス(フィルタやアンテナなど)が設計できる。平成22年度の目標は(1)レーザー蒸着法によるYBCO薄膜の作製条件の確立(2)YBCO/CeO2/Y:BCO積層ヘテロエピタキシャル成長条件の検討(3)YBCO/CeO2/YBCO積層ヘテロエピタキシャル膜の超伝導特性評価であり、それぞれの項目について、次のような成果を得た。 (1)レーザー蒸着法により、サファイア/CeO2基板上にYBCO薄膜をエピタキシャル成長できる条件を検討し、臨界温度(Tc)86KのYBCO単結晶膜の作製に成功した。薄膜のTcに大きく影響を与えるのは、作製時の基板温度及び酸素分圧であることを見出した。 (2)レーザー蒸着法によりYBCO/CeO2/YBCO積層ヘテロエピタキシャル成長膜の作製を検討した。作製した薄膜のX線2θ/θ解析、及びφスキャン測定により、結晶の配向及び、単結晶性を評価した。その結果、完全にC面配向した、ほぼエピタキシャル成長膜であることを確認した。また表面モフォロジーをAFMで評価した結果、表面の平均凹凸が20nm程度であることが分かった。 (3)YBCO/CeO2/YBCO積層ヘテロエピタキシャル膜の超伝導特性(臨界温度)を評価した結果、YBCO単層膜と YBCO/CeO2/YBCO積層ヘテロエピタキシャル膜はほぼ同じTc~86Kを示すことが分かった。 以上のように、平成22年度はほぼ目標とする成果を得ることができた。
|