スピントランスファートルク効果に基づく磁壁移動型メモリ創出のため,フェリ磁性体ナノワイヤにおける電流誘起磁壁移動をシミュレーション及び実験により検討した. 補償組成近傍のフェリ磁性体は,高い垂直磁気異方性かつ低飽和磁化を有し,低電力駆動に適した材料であることに着目した.シミュレーションにより,飽和磁化の小さくなる補償組成近傍で磁壁を動かすのに必要な閾値電流密度が従来材料よりも二桁以上低減できることを見出した.また,磁壁移動を妨げる磁壁ピニングがある場合でもその優位性が変わらないことを明かにした. さらに,フェリ磁性体連続層とグラニュラー層の積層構造を利用した積層構造ナノワイヤを提案した.積層構造ナノワイヤは,スピントランスファートルクによるデータ転送を担う連続層と,データを安定に保持するための安定化層によって構成されており,ナノワイヤの高密度化のための材料選択を柔軟にすることが出来ると考えられる.本研究では,シミュレーションによりその可能性を検討した.その結果,従来単層ナノワイヤに比べて,ビット長が低減出来ることがわかり,グラニュラー層を適切に選択することで高密度化が可能であることを明かにした.また,積層構造ナノワイヤにおける電流誘起時壁移動を調べたところ,層間の交換結合および静磁結合が,閾値電流密度及び磁壁移動モードに大きな影響を及ぼすことを明かにした.グラニュラー層にも低飽和磁化,高磁気異方性材料が求められ,今後,具体的な材料検討が課題である.
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