研究1年目の本年度は、本研究が目指す発光デバイス作製で重要な、希土類元素のイオン注入条件の検討を行った。本研究が目指す、希土類元素を窒化物半導体などのワイドバンドギャップ半導体に添加した構造は、希土類元素の内殻準位間の遷移を利用した温度変化に対しても波長安定性を有する発光が得られ、工学的に有用な新しい発光素子が期待できる。本研究では、電流注入発光素子の開発を目指して、AlGaN/GaNの高電子移動度トランジスタ(HEMT)構造のチャネルに、選択的にEuイオンをイオン注入し、その効率的な電流注入発光を実現するため、イオン注入条件や、注入領域の形状といった素子構造に依存性を調査した。 Euのイオン注入量、加速電圧などの注入条件と、発光素子の電気的特性および発光特性の関連について検討した。イオン注入した試料のvan der Pauw法によるホール効果測定から、シートキャリア濃度はEu注入量10^<14>~10^<16>cm^<-2>に対して大きな変化はみられず、電子移動度はドーズ量の増加とともに低下した。すなわち、Eu注入によるコンダクタンスの低下は、主としてキャリア移動度の低下によるものであることが分かった。電子移動度はEu注入量の増大とともに減少した。適切な注入量の設定により、注入領域の高抵抗化による電界集中が生じ、バイアスにより加速された電子によるEuイオンの衝突励起発光を引き起こすと考えられる。 次に、作製したデバイスのEL発光特性について評価した。ソースードレイン間バイアスV_<DS>=100Vにより注入部分に赤色発光が得られ、注入量の増加とともに明確な赤色発光が認められた。作製したデバイスのEL発光の分光器によるスペクトル分析から、Euイオンの内殻遷移^5D_0→^7F_2に対応する620nm付近にピークをもつスペクトルが得られ、作製したデバイスにおいて希土類元素、すなわちEuからの発光が得られていることが確認できた。今後、ここで得られたイオン注入条件や、デバイス構造、作成条件の最適化により、希土類元素の発光に基づくユニークな発光素子の高効率化が期待できる指針が得られた。
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