準弾道電子と準弾道フォノン系の統合モンテカルロシミュレータを活用し、微細トランジスタのドレイン内部で発生する非定常フォノン状態、いわゆるホットスポットの過渡的な発生と消失について、印加電圧のオン/オフに対する応答を調べた。今回はSi-MOSFETチャネル部を模した1次元n-i-n構造中の電子とフォノンを粒子でモデル化し、それらの分布の時間発展をモンテカルロ法で追跡した。電子伝導の解析部においては、電子とフォノンの衝突回数をカウントすることで発熱分布を求め、それに従ってフォノンを生成した。さらにフォノン拡散によって変化したフォノン温度分布から電子-フォノン散乱確率を更新し、その情報を電子伝導モデルに逐次フィードバックすることで自己無撞着な解析を実現した。チャネル長10nmの極微細素子の場合、ソースから注入された電子は印加電圧から得た運動エネルギーの大部分をドレイン内部にて光学フォノンを放出することで失うが、光学フォノンは群速度が遅いため、熱が周囲に拡散するにはフォノン-フォノン散乱を通じた音響フォノンへの変換を待たなければならない。シミュレーション結果では、それらの描像を反映し、ターンオン直後には時間に比例した光学フォノン温度の上昇が見られ、続いて光学から音響への緩和を経た音響フォノン温度の立ち上がりが確認された。これらのシミュレーション結果は、2種類の時定数を有するRCを2組含んだ熱等価回路で良好に記述することが可能であることが分かった。
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