半導体中の熱伝導解析のためにフォノンのボルツマン輸送方程式を粒子法で直接解くモンテカルロ(MC)シミュレータを開発し,それを用いてSi-FinFETからの熱排出にフォノン凖弾道性が与える影響を調べた. UTSOI,Fin,ナノワイヤFETなどの極微細トランジスタは,従来の平面型バルクMOSFETと比較して熱伝導性の悪い酸化膜に囲まれた構造を有するためチャネルから基板への熱結合が弱く,顕著な自己発熱効果の発現が懸念される.それらの動作や信頼性の予測には,電子に加え熱伝導の正確な理解も重要となるが,フォノン平均自由行程以下のサイズを持つナノスケールデバイスにおいては,凖弾道輸送効果の影響が無視できなくなると考えられ,新たなシミュレーション技術の構築が求められていた.MCシミュレータの開発にあたっては,バルクのほか薄膜Siの既存の熱伝導率(Tsi~20nm)を良好に再現することに成功した.その鍵は,(1)フォノンのフルバンド構造から求めた状態密度および群速度を取り入れたこと,さらに(2)界面におけるフォノン境界散乱をランバート則に基づいて適切に処理した点にある.次に作製したシミュレータを用い,フォノンの持つ準弾道性が現実的なFinFET構造内部の温度分布に与える影響を調べた.古典的な熱伝導解析法であるフーリエ則を用いた計算結果と比較したところ,MC法はより高温のホットスポット出現を予測した.フィン部(Tsi=8nm)の熱伝導は,高頻度のフォノン界面散乱の影響のため拡散的,すなわちフーリエ則で記述可能であるのに対し,フィン端からコンタクト電極へ流れる熱流に関しては準弾道性の影響が現れ,古典的手法(温度勾配に比例していくらでも熱流が上昇できる)の精度が悪くなる.ホットスポットの温度を正確に予測するには,このようなフォノン準弾道性に起因する熱抵抗成分を加味する必要があることが分かった.
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