研究概要 |
弾性表面波センサのダイナミックレンジの拡大と遅延線型弾性表面波センサの自己温度補償機能実現の基礎研究を行い、基本的に実現可能なことを以前に示した。しかし、遅延線型センサの伝搬損失が20dB以上と非常に大きく、極端な低消費電力化が必要なセンサネットワークのノードには適用出来ないことが分かった。また、-40~80℃で動作するガレージ内使用等では、自己温度補償機能は必須である。本研究では、今年度は新たに弾性表面波共振器を組み合わせた低損失遅延線型センサを提案した。また、新センサでも同様に自己温度補償機能の実現の可能性があるも分かった。 初めに本研究の基本である新提案のラチス回路形低損失遅延線の可能性を検討した。弾性表面波の波長λοは弾性表面波の速度でほぼ決まり、例えば水晶基板では速度はv≒3,000m/sである。また、弾性表面波は通常の波動現象と同様に、λο/2をピッチとする周期構造ではブラックの反射条件が満たされ伝搬方向が逆転する。アルミニュウム(Al)などで形成されるトランスデューサと同一金属材料で周期的なグレーティング反射器をトランスデューサの左右に形成すると、弾性表面波は反射器で折り返され一種の共振器となる。トランスデューサと反射器間がPとP-λo/4の共振器を考えると(インピーダンスはZ1、Z2)、Z1、Z2は反射器の帯域内でほぼ虚数部のみと成る。その周波数特性は、例えばIm(Z1)はインピーダンスがほぼゼロの共振周波数とほぼ∞の反共振周波数を交互に繰り返す。一方、Im(Z2)には同様の繰り返しが生じるが、トランスデューサと反射器間にλο/4の違いがあるため、Im(Z2)の共振周波数はIm(Z1)の反共振周波数と一致し、反共振周波数は共振周波数と一致することを見出した。従って、Z1、Z2をラチス回路に組むと、Z1の共振周波数ではインピーダンスがほぼゼロに対して、Z2はほぼ∞となるため、入力信号はZ1を通り出力へ現れる。逆にZ1の反共振周波数ではインピーダンスはほぼ∞で、Z2はほぼゼロと成るため、入力信号はZ2を通り出力へ現れる。この現象は反射器の帯域内で繰り返され、結局入出力間では極めて損失の小さい遅延線としての特性が得られることが予想出来る。今年度は高度なシミュレーン手法の開発により、各共振器の設計およびそれ等を組み合わせた低損失遅延線の設計を行った。
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