研究概要 |
本研究はCM0Sロードマップの更なる延長を目指して,量子補正モンテカルロ(MC)シミュレーションにより(1)ドレイン電流の増加,(2)リーク電流の低減(3)チャネル制御性の向上,(4)特性ばらつきの抑制の観点から,ナローおよびワイドバンドギャップIII-V族化合物半導体のロジックデバイスへの適合性を理論的に検討し,ポストSiデバイスとして真に有望なチャネル材料および構造を明らかにすることを目的とする。初年度は,代表的なIII-V族化合物半導体でありデバイスの試作も行われているInGaAsについて詳細な検討を行い,プレーナ型MOSFET構造に適用した場合の問題点を明らかにすると共に,デバイス内のキャリア輸送モデルを提案した。2年目の平成23年度は有効質量,谷間エネルギー,バンドギャップエネルギー等の異なる種々の材料(InGaAs,GaAs,InP)についての検討を行い,以下の成果を得た。 1.各種チャネル材料の検討 InGaAsは有効質量が小さいために注入速度が大きいが,ドレイン領域からの跳ね返りによりボトルネック速度が減少し,かつゲート容量が小さいために電子濃度が低い。GaAsはΓ-L谷間のエネルギーが小さいためにL谷内の伝導が起こり,かつドレイン領域からの跳ね返りも促進される。InPは有効質量が大きいために注入速度は小さいがドレイン領域からの跳ね返りが起こり難く,逆にゲート容量が大きいために電子濃度が高い。結果として,InPでより大きいドレイン電流が得られることを示した。またそれぞれについてデバイス内のキャリア輸送モデルを提案した。 2.量子補正モンテカルロ(MC)シミュレータの高度化 歪みバンド構造から抽出したバンドパラメータを用いて計算を行う量子補正MCシミュレータを開発し,研究に用いた。しかし歪みバンド構造をそのまま輸送計算に用いるフルバンドMCエンジンは計算時間・精度にまだ問題が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各種のIII-V族化合物半導体をチャンネル材料に用いたプレーナ型MOSFETの特性を比較・検討し,その優劣を議論すると共に,それぞれについてデバイス内のキャリア輸送モデルを提案した。フルバンドMCエンジンは計算時間・精度にまだ問題があり,本格的な利用には至っていないが,本研究課題を遂行する上では現在の近似的バンドを用いたMCエンジンでも大きな問題はない。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成24年度はこれまでのチャネル材料の検討結果を非プレーナ型MOSFET構造に展開し,課題(1),(2),(3)の観点から総合的な検討を行い,どの材料および構造がポストSiMOSFETとして真に有望であるかを明らかにする。課題(4)は材料および構造の選択とは概ね別課題であるため,研究資源を課題(1),(2),(3)に集中させる。量子補正モンテカルロ(MC)シミュレータの高度化は本研究後の展開を見据え継続して行う。
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