本研究では、人工的な有機材料であるフタロシアニンやトリエタノールアミンを感応膜とした安定性・信頼性に優れた匂いセンサの開発を行う。平成22年度は爆発物検知装置への応用を目指し、爆薬から発生する成分に関するデータを分析して、それに適する匂いセンサの感応膜材料の選択、センサ素子構成の検討を行った。その結果、検出対象を爆薬から発生する窒素酸化物(NOx)とし、感応膜材料としてフタロシアニン、センサ素子構成として櫛形電極あるいはSAW(Surface Acoustic Wave)デバイスを用いることとした。そして、これらの匂いセンサがNOxに対してppbオーダーから応答することを確認した。これにより爆発物検知装置への応用の可能性が確認された。 また本研究では、生物の嗅覚機構に学び、様々な匂いに対する高い識別能力を実現することも試みる。平成22年度はナメクジ嗅覚系の生理実験を行い、ナメクジが匂い認識を行う際、嗅覚系において神経細胞の活動の同調性が変化し、それぞれの匂いに応じた特有の時空間活動パターンが形成されることが分かった。そして、その結果に基づいて、ナメクジ嗅覚系ニューラルネットワークのハードウェアモデルを構築することを試みた。ハードウェアモデルとしては、我々がこれまで提案してきたパルス形ハードウェアモデルを用いた。これは回路構成が極めて簡単な構成(MOSFET:4個、コンデンサ2個)であるためIC化も容易なモデルである。このようなナメクジ嗅覚系ニューラルネットワークモデルに匂いセンサからの出力を入力できるような構成を考案した。
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