光通信ネットワークで活用されている波長多重通信技術のさらなる発展には、低消費電力で動作し、高密度に集積可能な波長可変フィルタが不可欠である。本研究では、双安定性を有する強誘電性液晶と高屈折率で光閉じ込めが強いシリコン導波路を用いることで、状態維持電力が不要で低消費電力動作が期待でき、超小型で高密度集積が可能な波長可変フィルタを開発し、さらに、それらを1チップ内に集積化した集積形波長可変フィルタアレイの動作実証を目指している。集積型波長可変フィルタアレイ回路の実現のために、基本要素となる波長可変フィルタの開発および性能向上を行い、主に次の3項目についての研究成果が得られている。 (1)複合共振器形波長可変フィルタの性能向上:低電圧動作に必要な薄い液晶層厚を実現するための液晶注入プロセスを検討し、基本技術を確立した。得られた技術を複合共振器導波路の設計・製作プロセスに反映させ、消光比の増大、波長特性のシフト量等の性能向上が得られた。 (b) 強誘電性液晶装荷Siグレーティング導波路の提案及び動作実証:本研究課題の研究過程において着想に至った強誘電性液晶装荷Siグレーティング導波路の製作と評価を行い、動作実証に成功した。さらに評価結果のフィードバックにより、製作技術と素子性能の向上が得られた。 (c) 波長特性の可変量増大の検討:強誘電性液晶の配向条件およびシリコン導波路の構造パラメータを理論的及び実験的に検討し、従来よりも大きな効果となる見通しが得られた。 以上の成果は、本研究が目指す集積形波長可変フィルタアレイの開発に向けた着実な進展を示しており、また、シリコンフォトニクスの分野においても新たな動的機能を実現する手法として貢献できるものと考えられる。
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