研究概要 |
歴史的文化的資産である古いフィルム映像が経年劣化や使用時の損傷などにより年々大量に失われつつある.このため,ディジタルアーカイブとして保存するために,計算機によるフィルム映像の修復が現在急務となっている.本研究では,非商業的な記録フィルム映像等を対象とし,フィルム映像の劣化の多次元信号処理的モデルを構築するとともに,超高精細ディジタルシネマ(4K,4096x2048画素,12ビット精度)として蓄積・閲覧およびネットワーク配信が可能な高精度な映像修復アルゴリズムの開発を目的とする. 本年度は,以下の研究実績を得た. 1.2次元位相限定相関法に基づく古いフィルム映像の位置ずれ推定のための計算コストの削減法を考案した.この方法では,位置ずれ推定精度をそれほど減少させることなく,ほぼ1次元位相限定相関関数法程度の計算コストで位置ずれを推定することができる. 2.映像の位置ずれの計測のために用いる位相限定相関法の基礎的性質を解析した.位相限定相関関数において,位相変動がある場合に,これが位相限定相関のメインローブとサイドローブに与える影響を解析した.位相変動が確率的であると仮定し,位相限定相関の期待値と分散を解析した.この結果,位相変動の分散が大きくなると,位相限定相関のメインローブは減少し,サイドローブは増加することを明らかにした,この結果は,これまで経験的に用いていた位相限定相関の理論的根拠を与えるものである.
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今後の研究の推進方策 |
位相限定相関関数の性能に対する数学的な解析をさらに推し進める.現在は,1次元信号に対する位相限定相関関数の性能の解析がほぼ終了したが,今後,画像に対する2次元の位相限定相関関数および映像に対する3次元位相限定相関関数の性能に対する数学的な解析を行う.これによって,目的とする古いフィルム映像の修復のための位置ずれと幾何学的変形を補正するための新しい手法の基礎が真に確立できる.
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