暗号技術の社会での利用の拡大と情報セキュリティに求められる技術自体への社会の要請の多様化に伴い、多様な特性を持つ暗号技術の研究開発の重要性が高まっている。そこで、従来の暗号技術を包含する、与えられた条件が成立した場合にのみ処理が実現される、条件付き暗号技術について研究を行っている。 本年度は、暗号文の復号者がディジタル署名を生成した場合にのみ復号が成功する暗号方式の構成を行い、その枠組みが効果を発揮する状況や解決すべき課題などについて考察を行った。ディジタル署名は署名者だけが生成できるように構成されているため、暗号文の生成者は、どのような値になるか分からないディジタル署名が生成されたことを検証しつつ、ディジタル署名が正しければ復号が行われるように暗号文(およびその復号処理)を構成しなくてはいけない。著者の知る限り、このような枠組みを議論した既存研究は存在せず、新しい着眼点に基づく課題といえる。今回はこの枠組みに求められる要素技術とそれらの関係についての仕組みを示すと共に、具体的な構成方法の一例を示した。この暗号方式は、例えば、ディジタルコンテンツの購入者が暗号化されたディジタルコンテンツにアクセスできたとしても、コンテンツ使用条件に署名しない限り復号できず、ディジタルコンテンツ自体を入手できないように設定できるなど、効果を発揮する状況も多い。一方で、考察した構成に関する解決すべき課題や構成の発展に繋がる課題なども多数存在するため、それらの課題について議論を行った。
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