複数の情報源の符号化を論じる多端子情報理論における最も基本的なモデルとしてSlepian-Wolf符号化がある。 Slepian-Wolf符号化における符号の理論解析は数多く行われており、最良の圧縮率を達成する符号が、列重みが制限されたLDPC(低密度パリティ検査)行列を用いた線形符号の中に存在することが示されている。しかしながら、これまでのLDPC行列を用いたSlepian-Wolf符号化に関する研究では、符号構成に先立ち情報源の確率分布を知っている必要があった。他方、実際のSlepian-Wolfシステムを考えたとき、情報源の確率分布は符号構成の際に未知の場合も多い。そこで、本年度は、情報源の確率分布が分らなくても符号化率が与えられれば構成でき、かつ情報源の達成可能領域内に符号化率が含まれていれば任意に小さい誤り率を達成する符号を、LDPC行列を用いて構成する方法について検討を行った。まず、定められた符号化率を達成可能領域内に含む有限個の定常無記憶情報源から成る混合情報源に対し、復号誤り率が符号長のマイナス3乗のオーダーよりも速く減衰するSlepian-Wolf符号が構成できれば、構成した符号は、符号化率を達成可能領域に含む任意の定常無記憶情報源に対しても、符号長を長くしたとき任意に小さい復号誤り率を達成できることを明らかにした。次に、上記の混合情報源に対し、復号誤り率について所望の条件を満足するLDPC行列を用いたSlepian-Wolf符号の存在を証明し、その結果として、情報源の確率分布を知らずに、符号化/復号化が行えるユニバーサルなSlepian-Wolf符号が存在することを明らかにした。
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