研究概要 |
本研究課題は,低計算複雑度かつ理論限界に迫る高性能を有する誤り訂正符号として近年注目を集めているポーラ符号,ならびにその基礎づけを与える通信路分極に関する研究を行うものである.平成22年度は,通信路分極に関する数理的な理解を深めるために,逐次除去復号法を用いた場合のポーラ符号の復号誤り率について,符号長が大きい場合の漸近的上界評価に関する研究を実施した.この研究課題に関しては,Arikanが通信路分極に関して最初に提案した際に使用していたバイナリ2×2行列にもとづくポーラ符号に対して符号化率に依存しない形での漸近的上界評価がArikanとTelatarにより得られていたに過ぎない.本研究課題によって,平成22年度は以下の研究成果が得られた. (1) ArikanとTelatarによる結果が通信路分極に伴って定義されるBhattacharyya過程に関する大数の法則に基づく議論から得られることに注目し,彼らの議論を中心極限定理に基づく議論に精密化することによって,ポーラ符号の復号誤り率の漸近的上界評価を符号化率に依存する形で導出した. (2) 上記の議論を一般化して大きいサイズの行列に基づく通信路分極に対する解析という形に拡張し,やはり符号化率に依存する形で復号誤り率の漸近的上界評価を導いた. (3) 通信路分極ならびにポーラ符号は基本的には二元体上で定義されるが,これらのq元体(q>2)上での定義への拡張を検討し,既存の代数的符号に基づくポーラ符号の族を新たに与えるとともに,これらの符号族に対する復号誤り率の漸近的上界評価も行った.
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