研究概要 |
本研究は,符号化,復号における計算複雑度が低く,かつシャノンの通信路符号化定理によって導かれる理論限界に迫る高性能を有する誤り訂正符号として近年注目を集めているポーラ符号,ならびにその数理的な基礎づけを与える通信路分極に関する研究を行うものである.本年度に得られた研究成果は以下の通りである. ・Arikanが通信路分極とポーラ符号を最初に提案した際に用いたバイナリ2×2行列に基づくポーラ符号の構成法の拡張を検討した.具体的には,通信路分極の議論を任意の有限体上に拡張するとともに,2×2行列に基づく構成法を一般のl×l行列に基づく構成法に拡張するKoradaらの先行研究と組み合わせることで,より一般性の高いポーラ符号の構成法を議論した.さらに,既存の線形符号に関する知見を援用することで,良好な漸近的性能を有するポーラ符号の具体的な構成法を導いた. ・通信路分極のより精密な解析にもとづく漸近的性能評価の改善を行った.具体的には,2×2行列に基づくポーラ符号の構成法において符号化に依存する形での復号誤り率の漸近的上界評価を与える結果を拡張し,上記のような有限体上で一般にl×l行列に基いて符号が構成される場合についての一般的な議論を行った. 研究成果の一部は,ローザンヌ工科大学のUrbanke教授の研究グループとの共同研究の成果として,共著にて論文をすでに投稿しており,現在査読中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般の有限体上で,かつ一般のl×l行列に基づく通信路分極およびポーラ符号の構成について,基本的には当初の研究計画に沿った形でまとまった研究成果を得ることができ,それを学術論文にとりまとめて投稿することができており,この観点からは概ね順調に研究が進展しているものと考える.一方で,復号の計算複雑度と性能とのトレードオフを考慮した符号系の設計,ならびに圧縮センシングなどの疎性を有する情報の圧縮復元に関する研究との関連についての考察については具体的な成果を得るに至っておらず,今後のさらなる研究が必要である.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本研究課題の最終年度であり,現時点で十分な研究成果が得られるに至っていない課題,具体的には,ポーラ符号の実用的な側面を見据えて,復号の計算複雑度と性能とのトレードオフを考慮した符号系の設計に関する研究課題,ならびに圧縮センシングなどの疎性を有する情報の圧縮復元に関する研究との関連についての考察について重点的に取り組む.圧縮センシングに関しては基礎的な検討を進めており,そこから得られる知見と通信路分極の問題とを詳細に付き合わせることによって次年度の研究を遂行する.
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