位相の異なる搬送波のベクトル合成を用いる送信機は、全ディジタル化に適するとともに、従来の送信機に比べ広い範囲の飽和電力バックオフに対し線形かつ高電力効率な動作が可能な特徴をもつ。この送信機について回路構成の改良検討および高周波動作実験による評価を行い、課題は残るものの、実現可能な見通しを得た。 (1) 回路構成の改良 回路シミュレーションによる回路構成の改良検討を行った。一般的な高効率増幅器であるE級増幅器は、前年度に提案した正負1ビット直交型送信機構成に対し整合せず、またバーストRF信号に対する過渡応答歪の発生を避けることができない。これに対し、D級増幅器は、整合するとともに、歪を低減できることを示した。貫通電流による電力効率低下の課題に対しては、DE級増幅器に拡張することにより解決できると考えている。なお、実効的な復調信号に対する電力効率(復調実効電力効率)の低下は、量子化雑音が原因であることがわかった。したがって、電力増幅器以前で量子化雑音を低減することにより、復調実効電力効率の向上が期待できる。また、復調実効電力効率に関し、フィルタ帯域幅を十分狭くすれば、直交型はポーラ型とほぼ同じとなることがわかった。このため、二相(直交型)より多くの搬送波を使用する多相搬送波の検討は中止した。 (2) 高周波動作特性評価実験 先行して、搬送波周波数50MHzにて、GaAs FET等の個別素子を用いた回路試作による実験を行った。今回はE級増幅器を用いたため歪が大きく、変調精度(EVM)は23dBと十分でない。今後、D級またはDE級増幅器を用いてEVMを改善する。一方、0.18μm CMOS集積回路については、使用する測定器の制限のため、搬送波周波数を2GHzから1GHzに変更したD級電力増幅器および正負1ビット直交型送信機周波数変換部を設計、試作し、現在測定中である。
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