研究課題
擬似乱数生成器において,入力の鍵と出力の鍵系列との間には何らかの関数関係が存在する.従来の相関攻撃は,まず攻撃の対象を1つのLFSRに限定し,1つのLFSRと鍵系列の間にある関数関係の局所的な情報のみを利用することで,精度をあまり犠牲にせずに,計算量を下げることに成功したものである.実は,このように局所的関係を利用して推定を行い低い計算量で高い性能を得る方法は,符号理論や統計力学などで確率推論のアルゴリズムとして盛んに研究されている.このような視点から見ると,擬似乱数生成器に対する攻撃は,「攻撃目標の変数の選択とその順序」,「攻撃のために用いる局所関係の選択」という2点で分類することが可能である.このように問題を統一的な視点から眺めると,単に新たな攻撃法が考えられるというだけでなく,現在得られている確率推論の知見で攻撃が可能となる擬似乱数生成器のクラスが明らかになる.逆の視点から見れば,確率推論アルゴリズムに対して脆弱である条件が解り,新たな安全性の指標が解明されることになる.平成23年度は主に,平成22年度で得られた数理モデルを基に,攻撃法の設計を行った.具体的には,数理モデル上で最適な攻撃法について定式化した後に,それに対する近似アルゴリズムを構成した.最適な攻撃法については,多端子情報理論の結果に加えて統計的決定理論および学習理論の結果を融合することで研究を進めた.確率的な関数による近似を行う場合の最適な攻撃法は,尤度が最も高い鍵を推定する推定法となった.このような推定法は符号理論や通信理論では最尤復号とよばれているが.一般には,最尤復号に要する計算量は莫大であるため,確率的な攻撃を仮定した場合においても最適な攻撃法は莫大な計算量がかかることが判明した.そこで,本研究では確率推論アルゴリズムに基づいた効率的な近似アルゴリズムを構成した.
2: おおむね順調に進展している
当初の研究目的である数理モデル上で最適な攻撃法について定式化した後に,それに対する近似アルゴリズムを構成するという点に関し,多端子情報理論の結果に加えて統計的決定理論および学習理論の結果を融合することで,確率的な関数による近似を行う場合の最適な攻撃法を構成することに成功しているため.実際,研究成果を国内学会や国際学会で発表しており.さらに,研究成果を示した論文もいくつか学術雑誌に掲載されている.
平成22年度・23年度の研究で得られた数理モデルなどを基に,攻撃法の設計及び新たな攻撃法に耐性を持つ擬似乱数生成器の設計を行う.具体的には,平成22年度の研究で得られた数理モデル上で最適な攻撃法に対する近似アルゴリズムを構成し,提案された攻撃アルゴリズムにとって攻撃が出来てしまう脆弱性はどのようなものであるかを抽出し,この攻撃に対抗できる擬似乱数生成器の設計を行う.擬似乱数生成器は非線形コンバイナ型乱数生成器など,様々な種類のものが提案されており,現在でも研究が活発に行われている.どのような擬似乱数生成器であっても,入力の鍵と出力の鍵系列との間には関数関係が存在する.平成22年度の研究では,特に入力と出力の間に存在する関数関係としてどのような構造が存在するかという視点で整理を行い,特にグラフィカルモデルとして表現することで関数関係の抽出を行った.具体的には,コンバイナ型乱数生成器,E3といった擬似乱数生成器のモデル化を行った.平成23年度の研究では,平成22年度に構築したグラフィカルモデルに対して,確率推論アルゴリズムに基づいた近似アルゴリズムを構築した.今後は,攻撃目標の変数の選択とその順序と攻撃のために用いる局所関係の選択に関する研究を行う.確率推論に関する研究や多端子情報理論に関する研究で得られた知見を用いて,様々なタイプの攻撃方法を提案する.
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (10件)
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10.5772/26486