本研究の目的は、線形動的システム理論に基づく一般化スプライン関数として生成されるパルス波形による極近距離高速ディジタル無線通信システムを構築することである。パルス波形の生成は、挟帯域フィルタを階段状波形で駆動することによって簡単に生成できる。高速化を図るために、パルス波形が重なっていても互いに直交するように階段状波形が設計されている。極近距離で対向するアンテナ対が2階微分特性を有するならば、送信パルスと同じテンプレートパルスを用いるだけで受信パルスを検出できるという利点もある。 平成22年度までの研究で、システム全体の構成法とパルス波形が存在するための必要十分条件は明らかになった。1秒間に60億個のパルスを伝送できるパルス波形の設計例も得られていた。 平成23年度の研究では、この理論の前提となっている2階微分特性を有するアンテナ対として、単純な微分系の特性をもつと期待される微小ループアンテナを設計した。電磁界シミュレーションの結果は、このアンテナを送受信に用いたときに、設計例のパルス波形が主にエネルギーを持っている3GHz~12GHzの範囲では2階微分特性を有することが示された。アンテナを製作して時間特性を実測したが、アンテナと駆動回路のインピーダンスが整合していなかったため、大きな反射波が生じてしまい、所望の特性を確認できなかった。 平成24年度の研究では、アンテナと駆動回路のインピーダンス整合を改善して、特性計測を行った。帯域内で2階微分特性に近い特性を示したが、利得は極めて小さかった。利得の改善が課題として残った。
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