最終年度は時間反転波シミュレーションに基づく可視化アルゴリズムの妥当性を示すため、実際にシステムを構築して実証実験を行った。波動伝搬の計算には高速性および時間領域での解法という観点から時間領域差分法を並列化して用いた。中でもメモリアクセスが少なく高速とされる波動方程式に基づく有限差分法WE-FDTD法を採用した。実験にはIntelのx86アーキテクチャのマルチコアCPUによるSMP並列計算機を用いてOpenMPによりマルチスレッド化する方法、もう一つはNVIDIA社のCUDAの登場以降特に脚光を浴びているGPGPU技術を用いる方法を試みた。 実験は周囲を反射壁で囲った一辺300mm程度のミニチュアサイズのモデル空間で、素子数10個の小規模なアレイを用いた。空間内に設置した音源からバンド幅の広い音響信号を送信した場合、アレイから遠方にある音源であっても概ね波長程度の分解能で音源の可視化が可能であった。このとき可視化にかかる時間は1フレームあたり約1秒であり、ほぼリアルタイムな可視化が実現された。ただしこれはミニチュアサイズの空間において2次元の可視化を行う場合であり、SMPタイプの並列計算機とGPGPU技術による並列計算機では速度面での差はあまりないことが分かった。同時に、問題の規模が大きくなるほどGPGPUの方が高速になる傾向が顕著になり、将来3次元問題に拡張する場合には問題サイズが大きくなることからGPGPUの有効性が大きくなることが示唆された。 本可視化法では空間の境界形状が既知である場合に特に有効であることから、今後の布石として境界形状を音響的に計測する手法についても検討をはじめ、反射音と直達音の到来方向から数学的な演算により反射点における境界の方向が推定できること、また音源の移動に伴い推定結果を累積することで境界形状が推定可能であることが示唆された。
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