経頭蓋磁気刺激装置を念頭に置き、多数個(数百個程度)のアレイ型磁界源を使用して頭蓋内に所望の誘導電界分布(に近い誘導電界分布)を合成すること目指し、逆計算手法により磁界源のパラメータ設定を決定する手法を検討してきた。平成22年度は理論的な検討を容易にするために逆計算の際は頭部モデルとして主に球モデルを使用し、逆計算手法には正則化項付き最小二乗法を使用し、基本特性の把握に努めた。ただし、球モデルを使用したのは誘導電界計算が困難だからではなく、逆計算結果の評価を容易にすることを意図したためである。これらの検討を通じ、磁界源パラメータの制約設定、正則化項設定、ならびに電界分布の設定・評価方法が、パラメータ推定結果を大きく左右することが経験され、これらの調整指針の必要性が明確化された。現在、各種設定を系統的に変化させることで誘導電界分布が所望の分布に近づくのを期待する方針よりも、複数の誘導電界分布合成ステップを設けて個別に有意な目標を設定して最終電界分布を得る方針の方が適切ではないかという感触を得ている。こうした検討の一部は、本学学士論文「経頭蓋磁気刺激のための誘導電流分布合成用外部磁界源設定手法に関する検討」(木村陸王・平成23年2月)にまとめられている。一方、誘導電界の数値計算法に関しては、GPUを使用したボクセルモデル用表面電荷法により800万ボクセル程度の生体モデル内の誘導電界をPC1台でおよそ90秒で解析可能にするなど、計算の高速化に関し順調な性能向上を達成できた。また、分極電流モーメント法または磁気モーメント法の考え方に基づいてボクセルモデル用表面電荷法を改造し、異方性媒質の取り扱いを可能とした。この手法の適用により、骨・筋線維・神経線維・膜などの生体組織の異方導電性を取り入れた解析が可能となることから、誘導電界分布計算値の信頼性向上に寄与するもとの期待している。
|