本研究の目的は,数式モデルを作成することなく,過渡応答データを直接に用いて,非線形制御器を設計する方法を与えることにある.以下の点を明らかにした. 1.ボリュームデータを用いた反証領域の3Dパラメータ空間表示について調べた.制御器が3つのパラメータを含む場合に安定度制約を満たさないパラメータの集合を3次元パラメータ空間に表示する方法は前年度に与えていた.これは制御器にパラメータが線形に含まれていない場合にも適用でき,集合も凸でなくてもよいので,汎用性が高い.今回はボリュームデータの計算をGPUで行うためのプログラムの作成と数値実験による計算速度や計算精度の評価を行った.3万点程度の格子点での計算が1秒以内に行え,通常のパソコンに比べて3000倍以上の高速計算が行えることを確認した. 2.非線形制御対象に対する提案しているデータ駆動設計法の有効性の検証した.制御対象が入力飽和,量子化器,バックラッシュなどの産業応用で重要な非線形性を含む場合について,線形PID制御器の設計にデータ駆動制御器設計法を適用した.ステップ目標値応答実験およびリレー振動実験で得られた過渡応答データを用いて,適切なPID制御器のゲインが得られることを示した.テスト信号の与え方に工夫が必要であった. 3.非線形制御器が出力の多項式関数で表され,設計パラメータがアフィンに含まれる場合について,データ駆動設計によるパラメータの選定方法を検討した.平衡点が原点にある非線形系について,振幅の異なるステップ信号を加え安定度を満たすパラメータの集合から適切なパラメータを求める方法を検討した.提案法の線形計画問題を用いると適切な解が得られなかったが,パラメータの大きさを制約する2次計画問題に修正することにより,妥当な解が得られた.
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