研究概要 |
感受者,感染者,回復者,ワクチン接種者の4人口からなる個体群に対して,環境の変化や感染症に対する免疫の個人差などを考慮した確率感染症モデルに対して以下の研究を行った. (1)最適ワクチン接種戦略の確立:ワクチン接種率を制御入力,感受者,感染者,回復者およびワクチン接種者を状態変数として,感染者密度分布とワクチン接種率からなる評価関数を設定し,感染症制御問題を確率最適制御問題として定式化し,確率最大原理を用いて最適ワクチン接種戦略を確立した. なお,ワクチン接種率には制約があるため,許容制御量の集合に制約条件が存在することになる.確率最大原理において現れる確率2点境界値問題(前向き後ろ向き確率微分方程式)は4ステップスキームを応用して厳密に解を求められることも明らかにした. (2)最適ワクチン接種戦略の有効性検証:計算容量・時間の制約から,ワクチン接種を考慮した感受者,感染者,回復者の3個体群を対象にシミュレーションを行い,構成した最適ワクチン接種戦略の有効性をシミュレーションにより検証した.シミュレーションでは4ステップスキームで現れる非線形確定偏微分方程式をADI法と陰公式を用いて計算を行った. (3)成果の公表:日本応用数理学会,システム制御情報学会,計測自動制御学会等主催の横断的分野における国際会議および国内会議で上記の成果を学会で発表し,他の専門家との意見交換を行い,提案した最適ワクチン接種戦略の改良点を検討した.評価関数における終端条件の付加や感染症モデルにおける潜伏期間,年齢構造の考慮などの改良点が明確になった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
H23年度の研究目標は確率感染症モデルに対する最適制御システムの確立と研究成果の公表であったが,最適ワクチン接種戦略の確立に成功し,日本応用数理学会をはじめとする種々の学会主催の国際会議および国内会議で成果を公表し,目標を完全に達成したことと感染症モデルの改善点が判明し,H24年度の研究指針が明確になり,今後の研究発展が確実になったため.
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今後の研究の推進方策 |
感染症モデルについて次の改善を行い,感染症抑制制御問題を考察し,成果の公表を行う. (1)感染症モデルの改善:感染者の潜伏期間を考慮し,感受者,感染能力のない感染者(潜伏期間の感染者),感染能力のある感染者,ワクチン接種者,回復者の5個体群を対象に,感染率の揺らぎ等を考慮した確率感染症モデルを構築する.また,ホスト人口に年齢構造を考慮した感染症モデル構成についても考察する. (2)最適制御システムの構築:上記(1)で構成した感染症モデルに対して,確率最大原理を適用し,最適感染症制御システムを構成する. (3)成果の公表:工学,応用数学,数理生物などの横断的分野において本研究で得られた成果を発表し,現実の感染症抑制制御への応用を考察する.
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