本年度は、ゆらぎを伴う分子アトラクターのモデリングに関する研究の調査から始め、その結果に基づき確率モデルの選択とシミュレーションモデルの構築に取り組んだ。本研究の目標は特定の生物の現象・機能の解明ではないが、その第一歩として生命現象の典型的な例である概日リズムというゆらぎを伴う分子アトラクターに焦点を絞った。概日リズムの制御メカニズムにおけるゆらぎの役割を定性的に理解するためには、できるだけ(本質を失わない範囲で)単純なモデルを用いる必要があるが、一方、概日リズムの制御メカニズムにおけるゆらぎを定量的に評価するためには、生化学反応に忠実な(したがって複雑で次数の高い)モデルを選ぶ必要がある。このようなモデルの複雑性や計算量とのトレードオフに注意しながら確率モデルの構築を検討した。 次に、ゆらぎの定量的解析に関する最新の研究結果の調査を踏まえて、確率モデルの構築を検討しながらゆらぎを伴う概日リズムの分子アトラクターを定量的に評価する方法を検討した。確率モデルに基づく定量的解析においては、概日リズムなどの周期的アトラクターに対する確率モデルがその対象となるが、アトラクターの確率分布の数理解析と同時に、その確率分布から導かれる生物学的に意義のあるゆらぎの統計量・評価量とは何かを検討した。平衡状態に関するゆらぎの解析と評価に関する先行研究を踏まえて、平衡状態からアトラクターという動的な定常状態に変更されたときに、制御メカニズムを解明するためにはどのような評価が合理的であるのか、また、どのような評価が生物学的特徴を抽出できるのか、といった視点から解析と評価の問題に取り組み、その評価の基礎となる評価式を提案し論文発表を行った。評価式に基づくゆらぎと機能の解析を次年度から行う予定である。
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